おひとりさま・老後

三日間、誰とも話していなかった。56歳の一人暮らしで決めた連絡の約束

図書館の本棚の前で、借りた本と布の鞄を持つ一人暮らしの男性

一人で過ごす時間は、気楽で好きだ。それでも、何日も誰とも話していないと気づいたとき、別の不安が顔を出すことがあります。日常の連絡と、もしもの備えを分けて考えた一人のSTORYです。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したフィクションです。

STORY|「元気?」に返事をする相手

三連休の最後の夕方、孝平は玄関で、借りていた本を布の鞄に入れた。図書館の返却期限が翌日だった。

五十六歳。自宅で校正の仕事をしている。一人暮らしは長く、食事も洗濯も、自分の順番でできる。金曜に仕事を納めてから、買い物は無人レジで済ませ、家で本を読み、気になっていた棚を整理した。

充実した休日だったと思う。けれど靴を履きながら、三日間、誰とも話していなかったと気づいた。仕事の連絡も、遠くに住む姉の真理からのメッセージもなかった。

誰かに毎日電話してほしいわけではない。ただ、もし自分から連絡できなくなったら、どのくらい経ってから誰かが気づくのだろう。

図書館のカウンターで本を返すと、職員が「ありがとうございました」と言った。孝平も礼を言い、次の休館日を尋ねた。自分の声が少し小さかった。たった二言、三言のやり取りなのに、声を出すことが久しぶりだったような気がした。

読みかけの続きが気になり、別の一冊を借りた。棚の前に立つ間も、さっきの問いが消えなかった。図書館に通うのは楽しみになる。でも、来なかった日に職員が心配してくれると考えるのは違う。

帰宅して、姉に電話した。

「何かあった?」

「何もないんだけど。それが、ちょっと気になって」

話すと、真理は笑わなかった。「私も、あなたが忙しいと思うと、連絡を遠慮することがあるよ」と言った。二人とも気を遣って、何も起きていない時間を長くしていたのかもしれない。

心配させないために、黙るのをやめる

真理は仕事と家の用事で忙しい。孝平も、細かく暮らしを報告するのは性に合わない。毎晩の電話を約束するのは、どちらにも無理がありそうだった。

「週に一度、日曜の夜に短いメッセージを送るのはどう?」

孝平から提案した。元気なら、読んだ本のことでも、食べたもののことでもいい。真理も、自分の近況を返す。見張られるための報告ではなく、お互いの暮らしが見えるやり取りにしたかった。

「返事がないときは、どうする?」

真理の問いに、孝平はすぐ答えられなかった。旅行中なら、仕事が長引いたら、電池が切れたら。返事が遅い理由は、いくつもある。

二人は、翌日までやり取りがなければ電話してみること、泊まりで出かけるときは先に知らせることを決めた。その先、電話にも出ない場合にどう確認するかは、住まいの管理会社へ相談してから話し直すことにした。管理会社が必ず部屋を開けてくれると決めつけるわけにはいかない。

「それで、何かあってもすぐ分かるとは限らないよね」

「うん。だから、これだけで安心ということにはしない」

言葉にすると、足りないところも分かった。毎日の安否確認が必要になったときは、姉だけに頼まず、別の仕組みを比較する。まずは一か月続けて、負担がないか確かめよう。そう決めた。

頼る相手を、一人で抱え込まない

電話を切ってから、孝平は連絡先のメモを作った。真理の番号と、管理会社の連絡先。姉には住所と部屋番号を改めて伝えた。何年も同じ家にいるのだから知っているはず、と思っていたことだった。

次の日曜、孝平は借りた本の感想を送った。「その作家、私も好き」と真理から返ってきた。続いて、姉の家の夕食の話になった。

不安がなくなったわけではない。それでも、返事をする相手がいることと、返事がないときの話ができたことは、別々に心強かった。

図書館へ行く日も、少しずつ暮らしに戻した。そこで会う人に、安否確認を頼むつもりはない。ただ本を返し、ひと言を交わす。備えとは別に、好きな場所で人とつながる時間も持っていたかった。

この話、実際なら?|連絡の約束と見守りを分けて考える

1.「返事がないとき」まで話しておく

孝平と姉の約束は、二人の暮らしに合わせた一例です。週一回の連絡だけでは、急な異変をすぐに把握できるとは限りません。頻度だけでなく、連絡する時間、返信を待つ目安、電話に出ない場合の次の確認先を、相手の負担も含めて決めます。旅行など予定が変わる日の伝え方も考えておきましょう。

住所・部屋番号・連絡先は、本人の同意のもとで必要な相手に共有します。合鍵を預けるか、室内へ入れる人をどうするかは別の話です。管理会社や知人が対応してくれる範囲を確認し、勝手に役割を割り当てないことが大切です。

2.見守りは「通知」と「駆けつけ」を区別する

電話、訪問、センサーなど、見守りの方法はさまざまです。例えば日本郵便は、月一回の訪問で生活状況を報告するサービスと、毎日の自動音声電話の回答結果を報告するサービスを案内しています。駆けつけは別のオプションです。

「見守り」という名前だけで、異変を常時発見したり、自動的に救急対応したりする仕組みだと考えないようにします。対象年齢・地域、誰へ何が通知されるか、応答がない場合の処理、駆けつけ条件、追加料金、停電や通信障害時の扱いを確認しましょう。報告を受ける人が必要かも重要です。

出典:日本郵便「みまもりサービス よくあるご質問」

3.今必要な支援だけを選ぶ

自治体などの見守り・生活支援は、利用条件や内容が地域によって異なります。まず自分の地域で利用できるものを調べ、必要な機能と費用を比べます。

見守りサービスを探していると、身元保証や死後事務などを一緒に扱うサービスを見かけることもあります。身元保証や死後事務まで一体で契約するサービスを検討する場合は、日常の見守りだけの契約と分けて考えましょう。国民生活センターは、サービス内容・料金体系が事業者ごとに異なるため、十分な説明を受け、その場で判断しないよう注意を促しています。消費者庁のガイドライン・チェックリストも確認材料になります。

出典:国民生活センター「高齢者サポートサービスの契約トラブルに注意」/消費者庁「高齢者等終身サポート事業の利用に関する注意点」

入院時の連絡先や保証人については、「入院申込書の『身元保証人』で手が止まった」で、求められる役割を分けて考えています。

次の一歩|まず、一人に具体的に相談する

「時々連絡する」から一歩進めて、誰と、いつ、どの方法で連絡するか。返事がないときは何をするか。紙一枚に書き、頼みたい相手と話してみませんか。頼れる相手が思い浮かばない場合は、自治体の福祉相談窓口などに利用できる支援を尋ねるところから始められます。

※サービス情報は2026年10月8日に公的機関・提供事業者の一次情報を確認しました。対象・料金・対応範囲は変わることがあります。連絡の約束は緊急対応を保証するものではなく、契約・利用条件は窓口で確認してください。