突然来た人の話を断れば、不安も一緒に帰ってくれると思っていた。60歳の修司は、翌朝も自宅の屋根を見上げていました。点検商法への警戒と、家を直す必要があるかどうか。その2つを、うまく分けられなかったのです。
※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・事業者・住宅の状態・工事金額は架空で、修理費用の相場を示すものではありません。
STORY|知らない人の一言が、古い染みを思い出させた
「近くで工事をしていたら、お宅の瓦がずれているのが見えまして」
日曜の昼、インターホンに映った男性は、そう言った。60歳の修司は、車を洗い終えたところだった。
「無料で見ます。このまま雨が入ると、工事が大きくなりますよ」
修司は門の内側に立った。男は道路から屋根を指したが、どの瓦なのか、修司には分からなかった。
「いりません。今日は頼みませんから」
声を強くした。こういう訪問の話は、ニュースで見ていた。男は名刺を差し出し、「見るだけでも」と言った。修司は受け取ったが、門は開けなかった。少しして男は去った。
家へ入ると、妻の千尋が「何だった?」と聞いた。修司は、屋根の点検だと答えた。
「ちゃんと断ったよ」
千尋は安心したようにうなずいた。修司も、うまく対応できたと思った。
ところが、寝る前に2階の廊下を通り、天井の隅へ目が行った。薄い茶色の染み。半年前、強い雨の日に千尋から言われたときは、「前からあったんじゃないか」と答えた。
そのあとも、雨漏りしたと分かるような水滴は見ていない。だから調べなかった。染みは消えず、今日だけ急に濃く見えた。
翌朝、修司は庭から屋根を見上げた。新聞を取りに来た向かいの人が、つられて上を見た。
「何かありました?」
修司は、昨日の訪問について話した。「ああいうのは相手にしない方がいいですね」と返ってきた。修司もうなずいた。それで話は終わったが、屋根のことは終わらなかった。
名刺を捨てようとして、手が止まった。あの男に電話すれば、今日にも見てもらえるかもしれない。自分が断った相手に頼むのは嫌だった。それ以上に、断ったまま雨が入ってきたら、と思った。
千尋が、廊下の染みをもう一度見てほしいと言った。
「前にも言ったよね」
「だから、前からあるって……」
昨日の男には言い返せたのに、家の中では同じ返事しか出てこなかった。
千尋は「じゃあ、私は誰に頼めばいいの」と言った。修司は黙った。家のことを任せておけと言ったのは自分だ。けれど、修理の費用を聞くのが怖くて、何も確かめていなかった。
修司は、以前に外壁の工事を頼んだ会社へ連絡した。点検の範囲と費用を聞き、日時を決めた。染みの位置と気づいた時期、昨日言われたことを伝えた。訪問者の言葉と、自分たちが見たことは分けて話した。
数日後、担当者は屋根と室内を調べ、写真を見せた。訪問者が言ったような瓦のずれは、この確認では見つからなかった。一方、屋根と壁が接する部分には傷みがあり、補修を検討した方がよいという説明だった。天井の染みについても、原因を含めた説明を受けた。
修司は、一瞬、全部問題なしと言ってほしかったと思った。そうなら、何もしなかった半年前の自分も間違っていなかったことになる。
出てきた見積もりは、足場や補修を含めて38万円だった。修司は金額の下ばかり見た。千尋は写真を指し、「今回、ここまで直すんですね」と担当者へ聞いた。
もう1社にも同じ箇所の確認と見積もりを頼んだ。そちらは31万円だった。修司は、安い方に決めようと言いかけた。しかし、工事の範囲も足場の計画も同じではなかった。何を直して、何を今回見送るのか、説明を聞き直した。
結局、修司たちは最初の会社へ頼んだ。安く済んだ話にはならなかった。修司が買い替えようとしていた自転車は、当面見送った。
「あの人が来なければ、まだ乗り替えられたのにな」
つい口にすると、千尋は「来なければ、天井をまだ見なかった?」と言った。修司は言い返せなかった。
工事の日、庭から足場を見上げた。知らない訪問者へは頼まなかった。でも、結局、屋根にはお金がかかった。そのことを、損をしたと言いたい気持ちは残っていた。
自転車店の見積もりを引き出しへしまい、代わりに家の補修の書類を入れた。千尋に褒めてもらえるような、きれいな逆転ではなかった。
雨の日には、2人で廊下の天井を確かめることにした。修司は「前からだよ」を、今度は確認したあとの言葉にしたかった。
この話、実際なら?|屋根の点検商法への対応と、修理の判断を分ける
修司が訪問を断ったことと、家に補修が必要だったことは両立します。「勧誘の仕方が不審だから家は無傷」「傷みがあるから訪問者へ頼む」のどちらにも飛ばず、別に確かめる道があります。
1.突然の点検は、その場で承諾しない
国民生活センターは屋根工事の点検商法を注意喚起しています。近所の工事を口実に訪ね、屋根の不具合を告げて不安をあおる勧誘は、知られている手口です。突然の訪問者を安易に屋根へ上げず、不要なら明確に断りましょう。
心配な箇所があれば、住宅を建てた会社や以前に依頼した事業者など、別の連絡先を自分で調べて確認します。点検だけでも、範囲や費用を先に聞きます。自分で屋根へ上ったり、訪問者へ確認を任せ直したりする必要はありません。
2.リフォームの見積もりは、総額だけで比べない
住まいるダイヤルの見積書セルフチェックでは、複数の見積書の比較と、工事箇所・数量・仕様・単価・追加工事の扱いなどの確認を案内しています。写真や調査結果の説明を受け、必要な工事の範囲をそろえて比べましょう。安さだけでなく、今回行うことと見送ることを理解するためです。
契約前・着工前の住宅リフォーム見積書については、住まいるダイヤルの無料の見積チェックサービスもあります。対象や条件を確認して利用します。現地での診断や、事業者との交渉を代行するサービスではありません。トラブルがすでにある場合は、見積チェックではなく電話相談を利用してください。
3.契約してしまったら、日付と書面を持って早めに相談
消費者庁の特定商取引法ガイドでは、対象となる訪問販売について、法定書面を受け取った日を1日目として8日以内なら、書面または電磁的記録でクーリング・オフできると説明しています。通知した内容や送信・発送の記録を残します。適用除外があるほか、書面の不備や妨害などで扱いが変わる場合もあるため、自分の契約で確認してください。
困ったときは、国民生活センターが案内する消費者ホットライン188などを通じて、早めに消費生活センター等へ相談します。訪問日、契約日、書面を受け取った日、勧誘の言葉、見積書・契約書、支払状況をまとめておくと伝えやすくなります。8日を過ぎたと思っても、自己判断だけで諦めずに相談しましょう。
通販の定期購入を扱った「2箱目は頼んでいない。」のSTORYでは、解約と返品を分けて確認しています。通信販売にはクーリング・オフ制度がなく、今回の訪問販売とはルールが異なります。契約の種類を確かめることが出発点です。
次の一歩|言われたことと、自分で見たことを分けて残す
「訪問者に言われた不具合」「自分たちが気づいていた変化」「まだ分からないこと」を別々に書いてみましょう。急がされて契約せず、別の窓口で確認する。勧誘を断ることを、家の手入れまで見送る理由にしないための一歩です。
※実用部分は2026年10月12日に消費者庁・国民生活センター・住まいるダイヤルの掲載情報を確認。補修の必要性や工法・費用は住宅の状態等で異なり、物語の金額を目安にはできません。