この夏、台風や大雨による浸水のニュースを見ながら、54歳の亮介は「うちは保険に入ってる」と言いました。けれど、妻に「何が出るの?」と聞かれると、答えが続きませんでした。
※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・住まい・契約・出来事は架空で、実際の被災者の体験談ではありません。
STORY|安くした理由は、覚えていた
テレビには、水の残る住宅街が映っていた。片づけの途中らしい家の前に、濡れた家具が並んでいる。
「こうなると、家だけ直せば済むわけじゃないんだね」
冬子が言った。亮介は、画面を見たまま答えた。
「火災保険には入ってるよ」
「火事じゃなくても?」
「そういうのも、まとめて入ってるはず」
54歳の亮介は、食品卸の会社で配送の手配をしている。52歳の冬子は、歯科医院の受付で働く。戸建ての家を買って18年。保険の更新は亮介、毎月の生活費の管理は冬子と、いつの間にか分かれていた。
この夏は、台風や大雨で道路や家に水が入ったというニュースが目に留まった。家の近くに大きな川はない。今までは、画面の向こうの地域のことだと思っていた。
「じゃあ、家具も出るの?」
冬子に聞かれ、亮介は「たぶん」と答えた。2回目の「たぶん」は、さっきより小さかった。
テレビの音を下げ、廊下の低い収納を開けた。透明のファイルを何冊か引き出す。車の書類、住宅ローンの書類。保険の証券は、思っていた場所になかった。
「そこじゃなくて、右の仕切り。前にあなたが移したよ」
冬子に言われて見つけた。亮介は床に座ったまま、ファイルを開いた。
補償の一覧に、水災は対象外とあった。
見た途端、更新のときの会話を思い出した。保険料を下げる案を聞き、「川から離れているので」と自分で話した。説明を読まずに契約したわけではない。読んだうえで、自分の家には要らないと思ったのだ。
「前は、付いてたんだっけ」
「俺が外した」
亮介は、証券を閉じたくなった。きちんと管理していたつもりの話が、節約して間違えた話に変わりそうだった。
冬子が別の欄を指した。
「水濡れは付いてる。こっちじゃ駄目なの?」
亮介も、そう思いたかった。スマートフォンで契約先の説明を開くと、給排水設備の事故などによる水濡れと、大雨による水災は分けて書かれていた。
「名前が似てるから、同じかと思った」
「私も。保険のこと、聞かないままだった」
冬子がそう言ったので、亮介は少し楽になった。その勢いで「じゃあ、水災を付ければいいな」と言った。
「いくら増えるの?」
また、答えがなかった。
翌日、契約している代理店へ連絡した。今の補償、建物と家財の対象、変更できる方法、補償が始まる日。聞いたことをメモし、説明と見積もりを送ってもらった。
夜、冬子と自宅の住所でハザードマップを見た。川からの洪水だけを探していた亮介に、冬子が雨水の排水が追いつかない場合の地図も開こうと言った。2人とも、自宅を中心に別々の地図を見比べるのは初めてだった。
見積もりは、思っていたより上がった。水が来れば何でも全額戻るという内容でもなかった。支払われる条件と、自分たちで負担する額を、もう一度聞いた。
「これを払ったら安心、ではないんだね」
冬子の言葉に、亮介はうなずいた。
それでも、直す費用をすべて自分たちで用意する場合と比べ、今回は建物と家財の水災補償を付ける方を選んだ。手続きを終え、補償内容と開始日を確かめた。
家計の表には、増えた保険料が残った。冬子は、買い替えようとしていた掃除機の欄を見た。
「これは、もう少し使おうか」
亮介は「そうだね」と答えたあと、「掃除は、俺もやる」と付け足した。
「保険を付けたからって、軽くはならないよ、これ」
冬子が廊下の掃除機を持ち上げた。亮介は、受け取った。
使い終わって収納へ戻すとき、保険のファイルを奥へ押し込もうとして、手を止めた。
「これは、右の仕切りでいい?」
冬子に聞いてから、2人が取り出せる場所へ立てた。掃除機はその手前に置かず、反対側へ戻した。
この話、実際なら?|火災保険の水災補償を確かめる
浸水の映像を見て気になるのは自然なことですが、亮介と同じ契約を選べばよいという話ではありません。住まいのリスク、補償の対象・条件、家計の負担を、自分の契約で確かめます。
この夏の大雨の一例として、気象庁「令和8年8月千葉豪雨」(速報)は、2026年8月13~14日の大雨で、千葉県を中心に浸水被害や土砂災害が発生したと報告しています。この実際の災害と、上の架空の夫婦の物語は別のものです。
1.「火災保険に入っている」だけで判断しない
証券や契約者用の画面で、水災が補償に含まれるかを確認します。「水濡れ」が付いていても、水災まで含むとは限りません。損保ジャパンの説明では、大雨などの水災と、給排水設備の事故などによる水濡れは異なる補償として案内されています。これは同社商品の説明なので、自分の契約では保険会社・代理店に確認してください。
2.建物と家財、支払条件を分けて見る
日本損害保険協会の案内では、建物と家財は分けて契約します。建物の補償があるから家具や家電も対象だ、と決めつけないことが大切です。
水災補償があっても、浸水すれば必ず修理費が全額支払われるとは限りません。例えば、損保ジャパンの水災の案内(2026年10月1日以降が補償開始日の契約)には、床上浸水や一定の損害割合などの支払条件があります。条件をすべての商品へ当てはめず、現在の約款・契約内容で、保険金額、免責金額(自己負担額)、支払条件を確認します。
3.川との距離だけで必要性を決めない
国土交通省・国土地理院のハザードマップポータルサイトから、住所周辺の洪水、内水、高潮、土砂災害など、関係する情報と自治体の地図を確認できます。内水は、雨水を排水しきれないことなどによる浸水です。地図の対象や想定条件も読み、分からない点は自治体に尋ねます。
編集部からの提案は、「被害が出たら手元のお金でどこまで対応できるか」と「保険料を継続して負担できるか」を一緒に考えること。全員に加入・除外のどちらかを勧めるものではありません。見直す場合は、変更の可否と手続き、補償が始まる日時も保険会社・代理店へ確認しておきましょう。
保険の確認と、避難の準備は別の備えです。2人分、そろえたはずだった。防災リュックを妻が下ろした日では、買った物を本人が使えるか、別々にいる日にどう動くかを考えています。災害時は書類探しや契約の確認を優先せず、命を守る行動を取ってください。
次の一歩|証券の「水災」と「保険の対象」を見る
まずは現在の契約を開き、水災の有無と、建物・家財のどちらが対象かを確認しましょう。分からない欄を一つメモして契約先へ尋ねるだけでも、「入っているはず」から先へ進めます。
※実用部分は2026年10月13日に気象庁・国土交通省・国土地理院・日本損害保険協会・保険会社の一次情報を確認。補償内容・保険料・支払条件は商品や契約で異なります。特定商品の契約を勧める記事ではありません。