地域の活動に協力したい気持ちはある。でも、家にいる時間が空いている時間とは限らない。「少しだけ」の中身を決めないまま、連絡係になった人の物語です。
※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・自治会・出来事は架空です。
STORY|直してあげた方が、早かった
昼休みに折り返すと、電話の相手は「家にいると思って」と言った。
茉由子は、冷めた焼きそばの皿を横へ寄せた。53歳。会社の経理の仕事を、週2日は自宅でしている。今朝も自治会の連絡が入り、昼に返すと伝えていた。
「お祭りの申込み、うちの分も入っていますか」
名簿は茉由子の手元にはない。申込みを集めた人へ聞くように伝えると、「あの紙を作ったのは、あなたでしょう」と返ってきた。
春、自治会の役員を打診されたとき、茉由子は仕事との両立が難しいと断った。今の役員は72歳の小田さんで、次の担い手を探していた。
茉由子も、回覧板を受け取るだけで過ごしているのは気になっていた。そこで「案内をパソコンで整えるくらいなら」と申し出た。
最初は、月に1回の清掃の案内だった。日にちと集合場所を入力し、文字を大きくした。小田さんから「見やすくなった」と喜ばれ、茉由子もうれしかった。
次に来た原稿には、集合時間が2つ書いてあった。聞き返し、確認を取り、締切も足した。小田さんは忙しそうだった。次の原稿を渡すとき、茉由子は自分から言った。
「分からないことがあったら、私に連絡してください」
自分が作った紙のことなら答えられる、というつもりだった。
そのうち、紙を見た班の人からも電話が来た。雨でも実施するのか。申込みの追加はできるか。茉由子は役員へ確かめてから返した。一度答えると、次も自分へ来た。
小田さんに伝えると、「詳しい人がいると助かる」と言われた。茉由子は、役員を断っておいて、これくらいもできないと思われたくなかった。
昼休みの電話を切ったあと、会社の打合せが始まった。頭の中には、確認して返していない申込みの件が残っていた。仕事の返事を一つ聞き逃し、もう一度説明を頼んだ。
その晩、茉由子は小田さんへ、案内作成以外の窓口はできないと伝えた。
「昼間の電話は出られません。問い合わせは、担当の方へ直接お願いしたいです」
小田さんは少し黙った。
「こっちも、誰に頼めるか分からないんですよ」
小田さんも、夜まで電話を受けていた。体力が落ちたから次の人を探していたのだ。茉由子が困っている分を返せば、そのまま小田さんへ戻るだけかもしれなかった。
それでも、「では私が受けます」とは言えなかった。
茉由子は、次の打合せで担当の範囲を決めたいと頼んだ。原稿の内容を決める人、申込みを受ける人、雨天時の判断をする人。それを紙に書き、案内を整える仕事とは分けた。
「確認も含めて作ってもらえると思ってた」
別の役員が言った。茉由子は「書いてある内容を入力するつもりでした」と返した。どちらも、最初に言葉にしていなかった。
原稿の締切を決め、内容の確認が済んだ物を受け取る。問い合わせ先は、各行事の担当へする。印刷費の立替えも、精算の方法を先に確認する。そう決めたが、雨天時の連絡を誰がまとめるかは、その日は決まらなかった。
小田さんが、今年の祭りの催しを一つ減らす案を出した。毎年楽しみにしている人がいる、と反対する声もあった。茉由子にも、なくなれば寂しい催しだった。ただ、寂しいと言うだけで、人を増やせるわけではなかった。
帰り道、小田さんと並んだ。以前のように、気軽な世間話にはならなかった。角で別れるとき、茉由子は「原稿は金曜までにお願いします」と伝えた。
翌月の案内には、問い合わせ先が3つ載った。以前より文字が多くなった。茉由子は見やすく整えたあと、もう少し直せそうな余白を見つめ、保存を終えた。
数日後、また申込みの電話が来た。茉由子は担当先を伝えた。代わりに確認しておくとは言わなかった。
「前は聞いてくれたのに」
受話器の向こうの声に、胸が縮んだ。それでも、電話を切ったあとに担当へ確認する連絡は送らなかった。
昼休みは、まだ12分残っていた。茉由子は焼きそばを温め直した。次の案内を作る日は、予定表に入れてある。
この話、実際なら?|自治会の役員・手伝いは、担当する範囲を確かめる
茉由子の自治会で決まった方法が、どの地域でも使えるわけではありません。まず、自分の自治会の規約と、実際の仕事を分けて確認します。
1.加入の任意性と、役員の運用を分けて確認する
鎌倉市の加入促進マニュアルは、自治会・町内会を住民が自主的に運営する任意団体と説明しています。自治体の組織そのものではありません。ただし、役員の選び方、任期、免除、辞退の相談先は地域ごとに異なります。
大和市のQ&Aも、持ち回りや免除規定の有無を各自治会へ確認するよう案内しています。これらは自治体ごとの案内で、全国一律の免除条件を示すものではありません。会則や引継書を見せてもらい、就任を決める前に負担を確認しましょう。
2.「できる」だけでなく、時間・期限・窓口を伝える
編集部の提案は、役職名だけでなく仕事の一覧を確認することです。会議の回数、昼間の訪問、電話対応、集金、行事の準備、立替金などを挙げ、自分ができる作業・時間・期間を伝えます。「在宅勤務だから日中対応できる」とは限りません。
引き受ける場合も、「月1回、確認済みの原稿を入力する。参加者の受付や問い合わせ対応は担当者へ」と境界を言葉にします。別の役割の提案は選択肢であり、断るために必ず代替の仕事を引き受けなければならない、という意味ではありません。
3.人を替えるだけでなく、仕事を減らすことも話す
美濃加茂市の自治会座談会の記録には、業務の簡素化や役員の仕事を見える形にする取組が紹介されています。ほかの地域の事例を、そのまま自分の自治会の決まりとしないよう注意しながら参考にできます。
担当の分散、連絡を受ける時間の限定、行事の規模や回数の見直しなどを、規約上必要な手続も確認して話し合います。選任や運営の相談先が分からない場合は、自治体の地域活動担当窓口へ尋ねる方法もあります。
長く引き受けてきた役割を見直す話として、「友人と会った帰り、いつも疲れていた。聞き役を休んでも、友達でいられる?」もあわせてご覧ください。
次の一歩|引き受ける前に、終わるところも決める
頼まれた仕事について、何をしたら完了か、判断や問い合わせは誰へ戻すかを一つ確認してみましょう。すでに負担が増えている場合は、実際にした作業と時間を残して相談します。
※実用部分は2026年10月16日に各自治体の一次情報を確認。会則・選任・免除の運用は自治会ごとに異なります。