お金・資産

「私はだまされない」と母に言った翌週、53歳の私が警察を名乗る電話に従った

警察を名乗る電話を聞きながら、帰宅した夫に待ってと合図する女性

詐欺のニュースを見て、「どうして信じてしまうのだろう」と思ったことはありませんか。警察を名乗る相手が、自分の名前を呼んだとき。53歳の玲子は、いつもの判断ができなくなりました。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したフィクションです。

STORY|電話を切る方が、怖かった

「知らない人にお金の話をされたら、まず切って」

先週、玲子は母にそう言った。テレビで詐欺のニュースを見たあとだった。母が「あなたも気をつけて」と返すと、「私は大丈夫。仕事でも、そういう確認は慣れてるから」と笑った。

その言葉を、翌週の水曜に思い出すことになる。

休日の午後、洗濯物を畳んでいると、携帯電話が鳴った。相手は警察官を名乗り、玲子の名前を確認した。

「あなた名義の口座が、犯罪に利用されています」

玲子は、最初は疑っていた。身に覚えはない。そう答えると、男は落ち着いた声で、「だからこそ、事情を確認する必要があります」と言った。

「今、電話で答えなければいけませんか」
「協力いただけない場合、手続きが変わります」

何の手続きなのか、聞けばよかった。けれど、犯罪に関係していると思われることが怖かった。

相手は、通話をメッセージアプリに移すよう指示した。画面に届いた警察手帳らしい画像を、玲子は拡大した。名前と顔写真がある。細部の本当らしさを確かめることばかりに気を取られ、なぜ警察がアプリで画像を送るのかは、考えなかった。

「ご家族にも、まだ話さないでください。捜査に関わります」

夫に連絡しようとしていた玲子は、指を止めた。自分で説明して、潔白だと分かってもらえばいい。そう思った。というより、早くそうなりたかった。

預金の額を尋ねられ、答えた。男は、資金の確認のために一部を指定口座へ移す必要があると言った。

「確認が終われば戻ります」

玲子の中に、また疑いが浮かんだ。それでも「詐欺ですよね」とは言えなかった。本物だったら。疑ったことで、自分が不利になったら。

スマートフォンで振込先を入力すると、知らない名義が表示された。男は「調査用です」と言った。その説明が何も説明していないことに、玲子はあとから気づく。

30万円。画面に表示された金額を見ながら、確定の操作をした。

送金が終わっても、男の声は優しくならなかった。

「残りも確認が必要です」

そこで初めて、玲子は腹が立った。さっきは一部と言ったのに。いつまで従えば終わるのか。

玄関で物音がした。予定より早く帰ってきた夫が、居間の入口から「どうした?」と声をかけた。

玲子は反射的に、口の前に指を立てた。夫を黙らせようとした自分に、はっとした。知らない男の指示を守るために、家族を遠ざけている。

「いったん切ります」

男の声が強くなった。玲子は最後まで聞かず、通話を切った。すぐにまた着信が来た。画面を伏せても、振動は机に伝わった。

「警察だって。私の口座が……」
「どこの警察?」

答えようとして、何を確認したのか分からなくなった。聞いた名前も、届いた画像も、全部、相手が用意したものだった。

夫と一緒に、自分たちで調べた警察署の番号へ電話した。やり取りを説明するうち、玲子の声は小さくなった。続けて金融機関にも連絡し、送金先と時刻を伝えた。

「もう振り込んでしまいました」

その言葉を口にするのが、一番つらかった。まだ何かの間違いであってほしい。夫に「だから気をつけろって」と言われたら、耐えられないと思った。

夫は、通話の間、送金の記録を隣で探していた。責める言葉はなかった。玲子は助かったが、何もなかったことにはならなかった。

その夜、30万円が戻るかどうかは分からなかった。相談は始まったばかりだった。

玲子は母に電話した。最初は、変な電話に気をつけてとだけ伝えるつもりだった。けれど、それでは先週と同じだと思った。

「私、信じちゃった。お金も振り込んだ」

母が息をのむ気配がした。玲子は、何か言われる前に「警察と銀行には連絡した」と続けた。

「そう。……今、一人じゃないのね?」

玲子は隣の夫を見た。「うん」と答えると、少しだけ呼吸が深くなった。

安心して終わった一日ではなかった。けれど、もう一人で取り返そうとはしなかった。「私は大丈夫」と言う代わりに、何があったのかを、途中からでも話した。

この話、実際なら?|相手を見抜くより、いったん切る

1.名前や画像、着信番号だけで本物と判断しない

警察庁のニセ警察詐欺の注意喚起では、警察は電話で捜査対象だと伝えたり、メッセージアプリで連絡したり、警察手帳・逮捕状の画像を送ったりしないと案内しています。実在する警察署等の電話番号を偽装表示する手口もあります。

「犯罪に使われている」「確認後に返す」と送金を求められても応じず、まず通話を切りましょう。相手が教えた番号に折り返さず、自分で確認した警察署の番号や警察相談専用電話 #9110へ相談してください。

2.「誰にも言わないで」が、相談を止めていないか

急がされる、家族へ話すことを止められる、説明に納得できないまま操作を指示される。そんなときは、会話を続けながら正体を確かめようとせず、相手から離れて考える時間を確保します。「自分は大丈夫」という自信より、「お金の操作の前に一度切る」という行動のルールを持つ方が、実行しやすくなります。

家族には「どうして信じたの」と責めるより、今の送金状況と相談先を一緒に確認してもらう。疑いの段階でも話せる関係が、次の要求に応じることを防ぐ助けになります。

3.送金してしまったら、早く警察と金融機関へ

金融庁の被害者向け案内は、警察と振込先の金融機関への連絡を促しています。振込元の金融機関にも連絡し、日時・金額・口座・やり取りの記録を伝えましょう。預金口座等への振込みによる被害では、救済法に基づく支払いを受けられる可能性がありますが、全額返還や返金そのものが保証される制度ではありません。

記録は保存し、追加送金や、相手が案内する「取り戻すための手続き」は進めず相談を。買い物の契約トラブルについては、「1回だけ」のつもりだった定期購入のSTORYで、別の相談先も整理しています。

次の一歩|「切ったあとにかける先」を決めておく

#9110と、自分の金融機関の公式窓口を確認しておく。家族とは、「変な電話があったら、途中でも話していい」と共有する。被害に気づいたときも、恥ずかしさだけで相談を遅らせないでください。

※制度・注意喚起は2026年10月9日に確認。個別の被害対応は警察・金融機関に相談してください。