人間関係

「たまには贅沢しよう」に、返事ができない。友人旅行の予算を伝えた日

喫茶店で旅行の予算を話し合う56歳の恵里と友人の文香を描いたイメージ

久しぶりの友人旅行だから、少し贅沢をしたい。自分もそう思うはずでした。56歳の恵里は、候補の宿の金額を見てから、友人への返事が遅くなりました。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・宿・金額・出来事は架空で、旅行費用の相場を示すものではありません。

STORY|行きたくないわけじゃない

「ここ、海が見える部屋なんだって」

喫茶店で文香がスマートフォンを向けた。恵里も写真をのぞき込んだ。窓の向こうに海が広がり、夕食もおいしそうだった。

高校の頃からの友人だ。55歳の文香は、家族との旅行では予定を調整する側だった。今度は自分が泊まりたい宿へ行きたい、と話していた。恵里も一緒に行くのを楽しみにしていた。

ただ、1泊の宿泊代が1人3万8,000円。交通費と昼食、現地での移動を足せば、考えていた総額を超える。恵里は旅行全体で3万円くらいと思っていた。どこにも言わず、自分の中だけで決めていた金額だった。

「たまには贅沢しようよ。毎年行けるわけじゃないし」

文香が言う。恵里は「そうだね」と答え、紅茶に口をつけた。

経理のパートで働く恵里は、最近、家の修繕でまとまった支出をした。旅行代を払えないわけではない。でも、今その金額を使えば、先に確保していた予備のお金へ手を付けることになる。

そこまで説明するのは、気が進まなかった。文香に気を遣わせるのも嫌だし、お金がないと思われるのも嫌だった。

帰宅すると、文香から日程の候補が届いた。恵里は「その週はまだ分からない」と返した。仕事の予定は、分かっていた。

翌日、文香は「部屋が少なくなってるみたい。日程、いつ決められそう?」と送ってきた。

恵里は、少し急かされていると感じた。まだ金額に賛成していないのに、とも思った。でも、文香は「そうだね」という返事を聞いていた。

「そんな高いところじゃなくても、いいんじゃない?」

送ったあと、別の宿を探してリンクを足した。文香から返ってきたのは、「今回は、あの宿に泊まりたいの」という短い文だった。

恵里は、別の宿の予約画面を見つめた。安い方へ合わせてくれれば、一緒に行けるのに。そう思うと、文香が自分より宿を選んだように感じた。

「見栄を張らなくてもいいでしょう」

そう打って、送らずに消した。文香があの宿を選ぶ理由を、ちゃんと聞いていた。自分が出せる金額の話を、相手の贅沢の評価に変えようとしていた。

電話をかけた。

「さっき、高いところじゃなくてもって言ったけど、私の予算の話を先にすればよかった」

文香は黙って聞いていた。

「今回は交通費も含めて3万円までにしたい。あの宿だと難しい。行きたくないわけじゃないんだけど」

修繕の細かい金額も、預金の残高も話さなかった。今回使える金額だけを伝えた。

文香は「そうだったんだ」と言ったが、すぐに別の宿へ変えようとは言わなかった。

「日帰りにする?」

恵里が聞くと、文香は「泊まって、朝の海を見たいんだ」と答えた。

恵里は、まだ一緒に行く方法を探したかった。日程を短くすれば、部屋を変えれば。けれど、文香が楽しみにしていた部分を一つずつ取り除くのは、別の旅行にすることでもあった。

「今回は、私はやめておくね」

言うと、電話の向こうで息を吸う音がした。

「残念だな。一緒に行けると思ってた」

「私も残念」

恵里は、相手から気持ちよく許してもらう言葉を探したが、見つからなかった。予約はまだしていないことを確認し、今回は見送ると、もう一度伝えた。

文香は、ほかの人を誘ってみると言った。次の旅行の約束はしなかった。

数週間後、文香から海の写真が届いた。前から知っている、別の友人と行ったそうだった。窓から見える海は、最初に見せてもらった写真より明るかった。

恵里は、きれいだと思った。自分もそこに座りたかった。予算を守れたから晴れ晴れしている、とは言えなかった。

「朝の海、見られてよかったね」

送ると、「風が強くて寒かったけどね」と返ってきた。続いて、朝食のパンを写した写真が届いた。

恵里は、今度はいつ会うかと打ちかけた。その話は、別の日にしたかった。写真を保存して、旅行用に出していた鞄を棚へ戻した。

この話、実際なら?|友人旅行は「出せる総額」を予約の前に

友人と予算が違うことは、どちらかが浪費家、どちらかが付き合いの悪い人だという意味ではありません。今回の旅で何にお金を使いたいか、どこまでなら負担なく出せるかを、申込みの前に共有します。

1.宿泊代だけで「行ける」と答えない

交通費、宿泊費、食事、現地の移動、入場料などを含めた総額を考えます。これは編集部の準備の提案です。追加で使う分も見込み、「払える最大額」ではなく、自分の暮らしに無理を残さない予算を伝えます。

「今回の総額は○円までにしたい」「宿にはお金をかけたいが、買い物は控えたい」など、金額と優先する楽しみを分けて話せます。収入や家計の内訳まで、相手へ開示する必要はありません。

2.変更案が合わなければ、見送ることもある

日程を短くする、時期をずらす、交通手段を変えるなどの案は、双方が望む場合に検討します。安い方へ合わせることも、高い方へ合わせることも、自動的な正解ではありません。「今回は行けない」と「あなたと会いたくない」を分けて伝え、相手の残念な気持ちが残ることも受け止めます。

友人との付き合いで引き受ける量を考えたい方には、友人と会った帰り、いつも疲れていた。聞き役を休んでも、友達でいられる?という別のSTORYがあります。

3.「とりあえず予約」は、条件を確かめてから

国民生活センターの旅行予約サイトの注意喚起では、宿や航空券はプランごとにキャンセル条件が異なり、予約直後の取消しでも全額がかかる場合があるとしています。誰が何人分を予約するか、立替えの精算、参加者が減った場合の費用を、先に合意します。

金額だけでなく、変更・取消しの条件、予約先の窓口も確認し、予約確認画面やメールを保管しましょう。すでに予約がある場合は、友人だけへ不参加を伝えて終わらせず、予約者が必要な変更を確認します。契約のトラブルは消費者ホットライン188で相談先を案内してもらえます。

次の一歩|「いくらまで」と「何を楽しみたい」を一緒に伝える

次に旅行へ誘われたら、候補の宿を選ぶ前に、自分の予算と楽しみにしていることを一つずつ伝えてみましょう。条件が合わない旅を断っても、別の会い方までその場で約束する必要はありません。

※契約・予約に関する実用部分は2026年10月13日に国民生活センターの一次情報を確認。会話や予算の整理方法は編集部の提案です。