決めたときには納得していた生活費の分担も、収入や働き方が変わると重く感じることがあります。同じ金額を出す約束の下で、違う負担を抱えていた夫婦の物語です。
※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・勤務先・金額・出来事は架空です。
STORY|同じ12万円だった
彰比古は、生活費の入金額を変えずに送金した。12万円。今月は、残った額の方を長く見ていた。
56歳。物流会社で夜勤のない担当へ移り、毎月の手取りが32万円ほどから20万円ほどになった。夜に眠れる仕事に変えたいと、妻の紗央里にも話していた。収入が下がることは分かっていたが、実際に明細を見ると違った。
54歳の紗央里は、今はフルタイムで働き、手取りは32万円ほどある。2人が同じ額を家計用の口座へ入れ、家賃、食費、光熱費などをそこから出す。それぞれの携帯代や趣味、個人の貯蓄は手元で管理する。子どもが独立したあとも、そのやり方だった。
「来月から、俺の分を少し減らせないかな」
夕食のあとに言うと、紗央里は「いくらに?」と聞いた。
彰比古は、まだ計算していなかった。同じ額ではきつくなったと伝えれば、あとは2人で決められると思っていた。
「収入の割合で、出すとか」
紗央里は食器を重ねる手を止めた。
「前に私が言ったときは、それぞれの働き方なんだからって言ったよね」
彰比古は、そんなに強く反対した覚えがなかった。紗央里が短時間の勤務をしていた頃、生活費を減らしたいと相談されたことはある。でも、家計が足りなくなるからと話しただけだ。
紗央里は、本棚の下から薄い家計簿を出した。昔のページには、生活費の入金と、そこから足りなかった日用品の支払いが並んでいた。子どもの用事で勤務時間を短くしていた時期だった。
「12万円は同じ。でも、洗剤とか、学校で急に必要になった物とか、私の財布から出してた。あとで言うほどの額じゃないと思って」
彰比古は、その頃も自分が家賃の半分を出していたことを言いたくなった。黙っていたら、何もしてこなかったようになる気がした。
「言ってくれれば、出したよ」
「言ったときの話を、今してるんだけど」
紗央里は家計簿を閉じた。
その夜、入金額は決まらなかった。彰比古は自分の部屋で、残った8万円から個人の支払いと貯蓄を引いてみた。まだ何とかなる。けれど、貯蓄を減らし続ける前提でよいとも思えなかった。
昔の自分の言い方が悪かったとしても、今の収入で困っていることまで、なかったことにはできなかった。
翌日、彰比古は自分の収支を書いて紗央里へ見せた。「昔の分は、ごめん。今の分も、話したい」と言った。
紗央里は、すぐには金額を出さなかった。まず、2人の生活費が月にいくらかかっているか確かめようと言った。口座から落ちる支出だけでなく、それぞれが買っていた物も出した。
彰比古は、台所の洗剤も、自治会費も、家計の表にない月があったことを知った。自分が立て替えた外食代もあった。2人とも、自分の財布から出した物は覚えていて、相手の分はあまり知らなかった。
家計用に出す額を、当面は彰比古9万円、紗央里15万円にする案になった。共同の支出を月24万円に収めるため、2人で日用品と食費の買い方も確かめる。半年に一度の支払いに備えるお金は、別に積み立てる必要があった。
「私が多く出す分、使い道を決めていい、とは思ってない」
紗央里が言った。彰比古は「分かってる」と答えかけ、飲み込んだ。昔の自分が、同じように考えていなかったか、確かでなかった。
3か月後にもう一度見直すことを決めた。昔、紗央里が出していた分をどう考えるかは、まだ話が残った。
次の土曜、彰比古も日用品の買い物へ行った。紗央里がいつも選ぶ詰め替え用を探すと、同じ名前で量の違う物が並んでいた。安いと思って手に取った方は、容量が小さかった。
「これ、どっちだった?」
隣の棚を見ていた紗央里に聞くと、「家に何本残ってた?」と返ってきた。
彰比古は、知らなかった。次は在庫を見てから来ると言い、いったん棚へ戻した。
その日のレシートは、家計用の封筒に入れた。紗央里の古い家計簿も、まだ同じ場所に置いてあった。
この話、実際なら?|夫婦の生活費は、分け方より先に全体を見直す
物語の9万円・15万円は、この夫婦が試す架空の金額です。収入差のある家庭へ同じ割合を勧めるものではありません。働き方の変更が、相手の負担へどう影響するかも含めて確認します。
1.手取りと、口座に現れない支出を並べる
消費者庁掲載の家計管理教材(PDF)は、収入・支出、税金や社会保険料を引いた手取りを把握する流れを示しています。額面年収だけでなく、毎月の手取り、賞与の変動、毎年の支払い、貯蓄の取り崩しも確かめましょう。
家計用の口座だけでは、個人が立て替えた日用品などは見えません。共通の支出をどこまで含めるかを決め、二重計上や見落としを減らします。
2.同額・収入比・項目別を、負担の違いで比べる
UR都市機構の2人暮らしの解説では、同額、収入に応じた分担、項目別の分担などを紹介しています。同棲向けの資料ですが、長く暮らす夫婦が方法を比べる際にも参考になります。
同額は計算が簡単でも、収入差があると手元の余裕は違います。収入比で出す方法も、家事やケアの負担を自動で反映するわけではありません。項目別なら、値上がりした費目だけ一方の負担が増えていないか確認します。どれかを公平の正解にせず、自分たちに残る負担を見ます。
3.見直す日と、別に話す問題を決める
編集部の提案は、試す期間と再確認する日を決めることです。過去の不満、今月の資金不足、将来の備えを一度に解決しようとせず、緊急に決める金額と、改めて話すことを分けます。多く出す人が相手の使い方をすべて監督する形にも注意が必要です。
お金に加えて家事の担当も変わるなら、「夫の定年後、出かける前に昼ごはんを作る私|夫婦の家事分担を見直す」では、作業と段取りを分けて考えています。
次の一歩|今月、各自の財布から出した共通費を一つ足す
直近の支払いから、家計の表に入っていない共同の費用を探してみてください。相手の買い物を採点するためではなく、2人の暮らしに必要なお金を把握するために持ち寄ります。
※実用部分は2026年10月16日に消費者庁・UR都市機構の掲載資料を確認。分担の提案は編集部によるもので、個別の家庭の適正額や法的な負担割合を判断するものではありません。