相続・実家

「何かあったら教えて」に、隣人が返した合鍵。空き家の実家を残していた私

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空き家になった実家の門前で郵便受けのチラシを回収する48歳の女性と、庭木の状態を伝える63歳の隣人

空き家の実家には、鍵を掛けてある。近所の人にも連絡先を渡した。それで備えたつもりだった女性が、隣人から合鍵を返されたSTORYです。

※この記事のSTORY部分はオリジナルフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。

STORY|私がいない日の、実家のこと

「この鍵、返しておきますね」

隣に住む宮本さんは、合鍵を小さな封筒に入れて渡した。48歳の紀乃は、手土産の袋を持ち替えた。

「何か、ご迷惑を掛けましたか」

63歳の宮本さんは、少し間を置いた。

「これからも、ずっとは見られないので」

母が亡くなり、実家を相続して1年半。父はその前に亡くなっている。一人娘の紀乃は登記を済ませたが、家をどうするかは決めていなかった。自宅からは車で2時間。最初は毎月来るつもりが、前回から3か月以上空いていた。

以前から母と付き合いのあった宮本さんに、「何かあったら教えてください」と番号を渡した。合鍵は、急なことがあったときのために預かってもらった。

宮本さんが「できる範囲なら」と言ったことを、紀乃はありがたく覚えていた。どこまでがその範囲なのか、尋ねたことはなかった。

写真をお願いするたびに

庭木が通路へ伸びている。郵便受けからチラシがはみ出している。風の強い翌日、雨戸が音を立てていた。

宮本さんから連絡を受けるたび、紀乃は「写真を送ってもらえますか」と返した。見てから考えたかった。仕事中に電話を受け、現地の様子が分からないまま業者へ頼むのは不安だった。

宮本さんは写真を撮り、チラシを抜き、雨戸を確かめてくれた。

紀乃は、そのたびに礼を言った。お歳暮も送った。何もしていないとは思っていなかった。

門の郵便受けを開けると、また紙が詰まっていた。紀乃が袋へ移していると、宮本さんが庭木を指した。

「あちらの道へ出ている枝、先月もお話ししたんですけど」

「週末に来ようと思ってたんです」

「通る人は、平日もいるので」

責める声ではなかった。それなのに紀乃は、遠くから来た自分の事情も分かってほしいと思った。

鍵を預けた人は、管理する人ではなかった

宮本さんは、秋から夫の通院に付き添う日が増えると言った。紀乃は初めて聞いた。母の家の異変ばかり尋ねて、隣の家の暮らしは知らなかった。

「鍵があると、私が見ておくものだと思ってしまうんですよ。夜に音がしても、気になりますし」

紀乃は「見に行かなくて大丈夫です」と言いかけた。そう言えば、相手の気が楽になると思った。

けれど、自分が来られない夜に誰が確かめるのか、その答えはなかった。

家の中では、母が使っていた椅子の上に、持ち帰るつもりの箱が置いてあった。前に来た日から、そのままだった。

紀乃にとっては、次に来るまで止まっている家だった。庭木も郵便物も、そうはなっていなかった。

残す値段を、初めて聞いた

その日のうちに剪定の見積もりを頼み、市の空き家相談窓口にも連絡した。管理だけ頼む方法と、売却や活用の相談は、分けて進められると分かった。

管理業者には、現地の状態を見てもらった。定期的な外観確認と、草木の手入れは同じ料金に含まれるとは限らない。台風の後の確認、室内へ入る作業、異常があったときの連絡方法も聞いた。

紀乃は、月々の管理費より、別途必要になる作業の見積もりの方を長く見た。宮本さんがしてくれたことに値段が付くと、思っていたより多かった。

週末に自分で来れば節約できる。しかし、これまで来られなかった予定を、今度は守れると書くこともできなかった。

まず越境した枝の剪定と、郵便受け周りの整理を頼んだ。鍵と窓の状態も確認し、定期巡回の内容を書面で決めた。常駐の警備ではないことも確かめた。

家は、売却を相談することにした。娘がいつか使うかもしれない、と何度も考えていたが、本人に聞くと「今は住む予定はない」と言った。あっさりした返事に、紀乃は少し傷ついた。自分も住む予定はなかった。

買い手が決まったわけではない。片づけにも費用がかかる。家を残したかった気持ちまで、見積書で消えたわけではなかった。

次に実家を訪ねた日、紀乃は宮本さんへ管理先が決まったと伝えた。「そうですか」と返ってきた。

紀乃が「本当にすみませんでした」と言うと、宮本さんはうなずいた。いつもの長い立ち話にはならなかった。

返してもらった合鍵は、翌週、管理業者へ預ける。その日は、自分の鞄に入れて帰った。

この話、実際なら?|空き家の防犯と、近隣に負担を残さない管理

1.施錠だけでなく、建物・庭・郵便受けを点検する

空き家の所有者等には、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、適切な管理に努める責務があります。戸締まり、窓や外壁の破損、庭木・雑草、ごみ、郵便物などを確認し、強風や大雨の後も、安全を確保して異常を確認します。危険な屋根や塀を自分で触って直そうとせず、必要な業者へ連絡してください。

郵便物がたまらないよう送付先等を整理し、貴重品は置いたままにしないことも検討します。近隣の人には連絡先を伝えても、巡回・片づけ・夜間の確認まで当然に引き受けてもらえるとは考えないようにしましょう。

出典:国土交通省「空き家の管理のやり方」/同「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」(管理作業・家財・報告)

2.管理委託は、作業・頻度・追加費用を具体的に

業者へ任せる場合は、物件の現状を一緒に確かめ、巡回回数、外部と室内の作業範囲、剪定や修繕の扱い、鍵の保管、写真等の報告方法、緊急時の連絡と追加費用、責任範囲・契約期間を確認します。定期巡回は常駐警備ではなく、すべての侵入や損傷を防ぐ保証でもありません。

すでに危険な状態や周辺への悪影響がある物件では、通常の巡回契約だけで済ませず、修繕等の対応を先に検討する必要があります。売却・賃貸を考える間も、当面の管理担当と予算を決めてください。

出典:国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」(現況確認・管理委託契約の項)

3.苦情を受けたら、自治体への相談と状態の改善を

連絡を受けた箇所を日時・写真等で記録し、対応予定を伝えます。物件所在地の市区町村の空き家相談窓口では、管理や活用、地域の制度について確認できます。空き家バンクや補助制度には地域ごとの条件があり、相談すれば必ず売れる、費用を補助してもらえるというものではありません。

管理状態によっては、空家法上の「管理不全空家等」や「特定空家等」として行政の指導・勧告等の対象となります。近所から苦情が来ただけで直ちに土地の税負担が変わるわけではありませんが、これらの空家等について勧告を受けると、固定資産税等の住宅用地特例の対象から外れます。

出典:国土交通省「空家法とは」/同「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」

4.解体を選ぶ場合も、契約前に届出を確認

解体には、権利関係、工事内容、廃棄物の処理、近隣への説明、税負担の変化を含めた確認が必要です。特定建設資材を用いた建物の解体で床面積の合計が80㎡以上など、建設リサイクル法の対象工事では、発注者等による着手7日前までの届出が必要です。対象外の規模でも別の手続きが不要とは限りません。

建築物除却届等の要否は自治体の担当窓口へ確認します。登記された建物を取り壊した場合の建物滅失登記は、原則として解体完了後1か月以内です。業者へ頼む作業と、自分に残る手続きを契約前に分けておきましょう。

出典:国土交通省「建設リサイクル法の対象となる建設工事では届出が必要です」/同「建築工事届・建築物除却届」/同「住まいを解体するときは」

次の一歩|次に行く日と、行けない日の対応を決める

家の外と中、庭、郵便受けを誰がいつ確認するか、不具合があったら誰に連絡するかを書いてみましょう。今すぐ売るか決められなくても、管理まで保留にする必要はありません。

売却・賃貸・保有の判断材料は、「相続した実家はどうする?売る・貸す・残すを比較」にまとめています。名義が古いままと分かった場合は、別の物語「実家の土地が、ひい祖父の名義だった。売却の相談より先に、家族をたどった」もご覧ください。

※制度情報は2026年10月21日に国土交通省の一次情報を確認しました。管理方法、届出、税務・補助制度は建物の状態や所在地等で異なります。個別の要否は自治体・法務局・適切な専門家へ確認してください。