仕事・第二の人生

履歴書の最後は、19年前だった。52歳、再就職して迎えた給料日

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靴店で通勤用のスニーカーを試し履きし、19年ぶりの再就職後の給料で選ぶ1足を確かめる52歳の佳奈絵

久しぶりに書いた履歴書は、職歴欄の半分も埋まりませんでした。52歳の佳奈絵が選んだのは、未経験の弁当づくりの仕事。19年ぶりに働き始め、最初の給料で買うものを決めるまでの物語です。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・勤務先・採用経過は架空です。

STORY|「以上」と書くまでが、長かった

旅行会社を退職したのは、33歳のときだった。

佳奈絵は古い手帳をめくり、退職した月を確かめた。窓口で旅行の相談を受け、予約の手配や変更をしていた。思い出せる仕事はいくつもあるのに、履歴書では数行で終わった。

19年。その間は子育てを中心に暮らしてきた。何もしていなかったわけではない。でも、求人に応募する書類の前では、書けることが急に少なくなった気がした。

子どもが大学へ進み、平日の昼間に働ける時間ができた。家計の足しにもしたい。それから、家の外で、自分の仕事を持ちたかった。

最初は、以前と同じ接客の求人に応募した。結果は不採用だった。次の事務の募集でも、採用されなかった。理由は分からない。スマートフォンで「50代 ブランク パート」と検索する時間だけが増えた。

次に目を留めたのは、近所の弁当製造会社だった。週3日、午前中からの4時間。求人には盛り付けと包装、未経験者には手順を教えることが書かれていた。

ハローワークで応募書類を見てもらって応募した。面接では勤務時間と、立って行う作業の内容を確かめた。

「食品の仕事は初めてです。教わった手順を、確認しながら覚えたいと思っています」

練習してきた言葉だったが、声に出すと、少しだけ落ち着いた。

採用の電話は、洗濯物を取り込んでいるときに来た。通話を終えても、佳奈絵は洗濯ばさみを握ったままだった。

家の台所とは、違った

初出勤の前に、勤務条件を書面で確認した。試用期間中の賃金や、制服・作業靴の貸与についても聞いた。通勤には、以前から履いているスニーカーを使うことにした。

働き始めると、家で毎日料理をしてきたことだけでは、追いつかなかった。

身支度と手洗いの手順。食材を扱うときの決まり。盛り付ける量と位置。弁当の種類が変われば、確認する見本も変わる。慣れた人の手が、ひどく速く見えた。

佳奈絵が2つ目の容器を手に取るころ、隣では4つ並んでいた。

「すみません、遅くて」

教えてくれる30歳の永瀬さんは、見本を佳奈絵の前へ寄せた。

「今は量と位置を合わせてください。速さは、その後で」

そう言われても、気持ちは急いだ。詰めた数が分からなくなり、数え直す。帰り道は足が重く、靴擦れもできた。

家では、夕食の途中で眠くなった。次も同じように疲れるのだろうか。でも、次の勤務までは2日ある。今夜は早めに寝ることにした。

次の勤務では、分からなくなった時点で手を止めて尋ねた。退勤後、休憩室で、その日に教わったことをメモした。家でも読み返した。

「任せます」と言われた朝

3週目、佳奈絵は弁当の数と行き先を照合する作業も教わった。職場で決められた順序で、注文票、容器の数、行き先を確かめる。最後は担当者に確認を受ける。

何度か一緒に行った後、永瀬さんが「ここからは、佳奈絵さんに任せますね。最後は私も確認します」と言った。

頼まれたのは、見慣れない大仕事ではなかった。それでも、自分の名前を呼ばれたことがうれしかった。

ある朝、同じ運営会社の、別々の施設へ届ける2つの注文があった。注文票を読み上げ、箱の表示と照らす。片方の数が合わない。佳奈絵は出荷担当を呼び、まだ作業台に残っていた分を確認してもらった。

それから、数をもう一度そろえて確かめた。永瀬さんも最後の確認をした。

「助かりました。この2つ、今日は時間も違うんです」

佳奈絵は「はい」と答えた。家へ帰っても、その場面を何度も思い出した。弁当の数を数えただけ、と小さく言い直すのはやめた。

翌月の給料日、明細と振込額を確かめた。明細の労働時間には、研修を受けた日も、数え直していた日も含まれていた。

仕事を終えた後、入金を知らせる画面を開き直した。振込元には、19年前とは違う会社の名前があった。

仕事を始めたと知らせていた娘から、「最初のお給料で何買うの?」とメッセージが来た。

佳奈絵は「通勤の靴」と返した。

帰りに靴店へ寄り、何足か履いた。少し歩いて、かかとを確かめる。値札を見て安い方へ戻しかけ、もう一度、履き心地のよかった方を履いた。

決めた靴を箱へ戻してもらい、レジで支払った。次の出勤には、この靴を履いていこう。箱の入った紙袋を受け取ると、火曜日が少し楽しみになった。

家へ帰って箱を開けると、娘から返事が来ていた。

「履いたところ見せて」

佳奈絵は玄関で新しい靴を履いた。足元の写真を撮り、「火曜から、これで行ってくる」と送った。

この話、実際なら?|50代、長いブランクからの再就職

佳奈絵の採用経過は一つの創作であり、同じ条件で採用されるという意味ではありません。応募の準備と、働き続けられる条件の確認を、並行して進める方法があります。

1.短い職歴でも、担当した仕事を具体的に

働いていた時期と担当した仕事は、事実に沿って整理します。就業していない期間を説明するときも、家事や育児を架空の職歴に変える必要はありません。現在働ける曜日・時間や、新しく覚える必要があることを具体的にしておきましょう。

ハローワークの応募書類案内には、履歴書・職務経歴書の作成資料があり、窓口での添削アドバイスも紹介されています。自分で書いた下書きを持って相談する方法もあります。

2.「未経験可」の先にある、実際の作業を聞く

立ち仕事の長さ、運ぶ物の重さ、始業時刻、通勤、研修方法、困ったときに尋ねる相手を確認します。「家でやっているからできる」とも、「久しぶりだから何もできない」とも決めず、応募先の仕事について聞きましょう。

ハローワークの公式FAQは、仕事探しの相談や職業紹介などの支援を無料で行うと案内しています。応募書類や面接の助言も受けられます。相談しただけで採用が決まる制度ではありません。

3.採用の連絡と、労働条件の確認を一緒に

厚生労働省の労働条件の解説では、募集時の条件に加え、契約時には労働条件通知書等で確認することを案内しています。業務、場所、労働時間、賃金、契約期間、試用期間中の条件などを確かめ、不明点は働く前に尋ねます。有期契約なら更新の基準や上限も確認しましょう。

家計の見通しは、時給だけでなく、勤務日数、交通費や必要な支出も含めて考えます。社会保険の加入や扶養の扱いは、勤務条件や家族の加入制度等によって異なるため、勤務先や保険者などへ個別に確認してください。

以前の職歴をどう伝えるかは、「前職では課長でした」57歳、面接でいちばん大事な質問を聞き逃したでも描いています。過去の経験と、これから働く場所の条件を確かめる、別の主人公の物語です。

次の一歩|応募書類と、続けられる条件を並べる

職歴を短く整理した紙の隣に、働ける曜日・時間、通える範囲、確かめたい作業を書いてみましょう。求人を1件選び、まだ分からない点を相談するところから始められます。

※実用部分は2026年10月24日に厚生労働省・ハローワークの掲載情報を確認。採用基準、研修、勤務条件は事業所ごとに異なります。