※このSTORYはフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。
STORY|空欄のままの一行
「来週、検査入院になります」
医師にそう言われ、佐和子は小さくうなずいた。
68歳。夫とは7年前に死別し、子どもはいない。妹は北海道にいるが、もう何年も会っていなかった。
会計を待つ間、渡された入院申込書に住所と氏名を書いた。緊急連絡先の欄で少し迷い、妹の名前を書く。
その下に、「身元保証人」とあった。
続柄、住所、電話番号。さらに、入院費用についての文言が続いている。
ペン先が止まった。
妹に頼めば、引き受けてくれるかもしれない。でも、病院から遠い。妹の夫も体調を崩していると聞いた。費用まで迷惑をかけると思われたくなかった。
隣の席では、娘らしい女性が父親の書類を書いていた。
佐和子は申込書を鞄にしまった。
帰宅して、町内会の友人の顔を思い浮かべた。鍵を預けるほど親しい人。けれど、お金の責任を頼む関係ではない。
夜になって病院へ電話した。
「保証人を頼める人がいないと、入院できないのでしょうか」
電話口の職員は、少し間を置いて答えた。
「まず、医療相談室につなぎますね。保証人欄で困っていることを、そのままお話しください」
一つの名前に、いくつもの役割
翌日、医療ソーシャルワーカーと話した。
「病院が確認したいことを、役割ごとに整理しましょう」
緊急時に連絡できる人。入院費の支払い方法。退院時に支援が必要になった場合の相談先。本人が意思を伝えにくくなったとき、これまでの希望を知っている人。
佐和子は、保証人という一つの言葉に、全部が詰め込まれていると思っていた。
「妹には、緊急連絡先になれるかだけ聞いてみます。費用は預金から払えるようにしたいです」
「それぞれ確認していきましょう。病院の書式と対応も説明します」
妹に電話すると、最初の返事は「もちろん」だった。
「でも、すぐ駆けつけるのは難しいよ」
「うん。できないことまで頼みたいんじゃないの」
佐和子は初めて、自分が何を頼みたいのかを言葉にした。
入院申込書のすべての欄が、思ったとおりに埋まったわけではない。それでも医療相談室と確認し、支払い方法と連絡体制を整理して、入院の準備を進めることができた。
冷蔵庫には、妹と病院と町内会の友人の番号を貼った。友人には、入院中の郵便受けだけ頼んだ。
一人で生きてきたつもりだった。
けれど、一人ですべてを引き受けることと、自分で決めることは、同じではなかった。
この話、実際なら?|身元保証人を頼める人がいないとき
厚生労働省は、入院による治療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことだけを理由に医師が入院を拒否することは、医師法上の応招義務に抵触すると通知しています。
ただし、実際の書類や運用は医療機関によって異なります。空欄のまま諦めたり、内容を理解せず誰かに署名を頼んだりせず、病院の患者相談窓口・医療相談室・医療ソーシャルワーカーに事情を伝えます。
1.病院が求める役割を分けて確認する
「身元保証人」という名称でも、緊急連絡、入院費用、退院支援、亡くなった場合の対応など、求める内容が同じとは限りません。誰が、どこまでの責任を負う書類なのか、一項目ずつ確認します。
2.支払い方法を具体的に相談する
入院費を本人がどのように支払うか、限度額適用認定など利用できる公的制度があるか、事前に病院へ確認します。預金管理や支払いが難しい場合は、自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センター等につないでもらえるか相談します。
3.医療の同意を「保証人に全部任せる」と考えない
本人に意思決定能力がある場合は、本人への説明と本人の意思が基本です。将来、意思を伝えにくくなる場合に備え、自分が大切にしたいこと、治療や暮らしの希望、相談してほしい人を話しておくことはできます。特定の人が家族というだけで、すべての医療行為に本人に代わって同意できるとは限りません。
4.民間の身元保証等サービスは契約内容を比較する
身元保証、生活支援、死後事務などを提供する民間サービスもありますが、サービス範囲、追加費用、預託金の管理、解約、緊急時対応、事業者がサービスを継続できない場合の扱いを確認する必要があります。病院の保証人欄を埋めることだけを目的に即決せず、契約書を持ち帰り、必要に応じて消費生活センターや専門家へ相談してください。
確認メモ
- 保証人欄が空欄になることを、早めに病院へ伝える
- 緊急連絡、費用、退院支援など、求める役割を分けて確認する
- 患者相談窓口・医療相談室・医療ソーシャルワーカーへ相談する
- 自分の希望と、連絡してほしい人を整理する
- 民間サービスは料金・預託金・解約・事業継続時の扱いを比較する
身元保証人を頼める人がいません。入院に必要な連絡、支払い、退院支援について、別々に相談させてください。
※制度情報は2026年9月22日に厚生労働省等の公的資料を確認した一般的な内容です。本稿は公開前の人間レビューを前提とした下書きです。医療機関の書式・運用、患者の状態、地域の支援制度によって対応は異なります。個別の対応は医療機関、自治体、地域包括支援センター、社会福祉協議会、適切な専門家等へご確認ください。