親と家族

孫はかわいい。でも、木曜のお迎えには行かない

陶芸教室で作りかけの小鉢を手にし、縁を見つめる55歳の美佐子を描いたイメージ

週2回のつもりで始めた、孫のお迎え。頼られるのが嬉しくて「いつでも」と言った55歳の美佐子は、自分の予定を何度も取り消していました。娘が困ると分かっていても、今回は引き受けない。そう決めた木曜日の話です。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。

STORY|「大丈夫」を言ったのは、私だった

玄関で3歳の航が靴を脱いでいる間に、美佐子は陶芸教室へ欠席の連絡を入れた。

木曜の午後の教室を休むのは、今月2回目だった。電話の向こうで「次は来られそうですか」と聞かれ、「はい、たぶん」と答えた。

航は片方の靴下も脱ぎ、美佐子の背中にくっついた。

「ばあば、ねんど、できた?」

前に見せた、作りかけの小鉢の写真を覚えているらしい。「まだ」と言うと、航は「ぼくもやる」と笑った。その顔を見ると、休んだことを残念がる自分が、ずいぶん勝手な人に思えた。

55歳の美佐子は、スーパーで午前中のパートをしている。30歳の娘、千夏が仕事に復帰した春から、火曜と金曜、保育園へ航を迎えに行き、千夏が来るまで自宅で預かっていた。

娘の家は徒歩15分。千夏の夫も迎えを担当するが、2人とも勤務の都合が変わることがある。水曜も、木曜も、と頼まれるうちに、週2回は目安になった。

最初に「困ったらいつでも言って」と言ったのは美佐子だった。

復帰前、千夏は「お母さんの予定もあるし」と遠慮していた。それを「私は午後が空いてるから」と押し切った。陶芸は木曜だけなのだから、調整できるつもりだった。

頼られるのは嬉しかった。保育園で航が自分を見つけて走ってくると、仕事を終えたあとの疲れも、いったん忘れた。

その木曜、千夏が迎えに来たのは午後7時過ぎだった。美佐子は航の夕食を済ませ、洗い物をしていた。

「またうどん? 昨日もそうだったんだよね」

娘は航の荷物をのぞきながら言った。責めるつもりではなさそうだった。でも、美佐子は蛇口を強く閉めた。

「じゃあ、何を食べさせればよかったの」
「そういう意味じゃない。先に聞いてくれれば」
「迎えもごはんもやってるのに、まだ足りない?」

千夏は荷物を置いた。

「ごめん。でも、そこまで大変なら言ってよ。大丈夫って言うから」

美佐子は、航の前で言い合いをしたくなくて黙った。娘が帰ったあと、出しそびれた副菜を冷蔵庫に戻した。航が寝る前にお腹を空かせないようにと思い、夕食まで引き受けた。それがいつの間にか、何を出すかでも評価される仕事になっていた。

けれど、頼まれていないことまでやって「ありがとう」を待っていたのも、自分だった。

日曜、美佐子は千夏に電話した。来月は火曜と金曜だけ、午後6時まで。夕食は必要なら用意してもらう。追加の日は、その都度聞いてほしい。

「木曜は陶芸に行くから、引き受けない」

千夏はしばらく黙り、「来月からなら、2人で勤務を調整してみる」と言った。

「ただ、今度の木曜だけお願いできない? 私は研修で、夫も遅くなる」

美佐子は、いつもの「大丈夫」を喉のところで止めた。今度の教室では、残してある小鉢の形を仕上げたかった。

「今度も行きたいの」
「だったら最初から、いつでもできるって言わないでよ」

胸が熱くなった。「あなたたちだって、いつも急じゃない」と返したかった。それでも、娘の言葉には、自分が言ってきたことがそのまま入っていた。

「そうだね。あれは言いすぎた。ごめん。でも、木曜は引き受けられない」

「分かった。こっちで何とかする」

電話は、そこで終わった。

月曜、千夏から連絡が来た。夫が勤務を調整して木曜の迎えに行く。夕食も、そちらで済ませる。普段ついている顔の絵文字はなかった。

美佐子は「ありがとう」と返しかけてやめた。航の父親が迎えに行くことを、自分への親切みたいに受け取るのも変だった。「分かった」とだけ送った。

木曜の教室で、小鉢は湿らせた布をかぶって待っていた。布を外すと、少し傾いた縁が見えた。途中で急いで片づけた日の、自分の指の跡だった。

美佐子はエプロンを着け、椅子に座った。いつも保育園へ向かう時刻が近づくと、壁の時計を見た。千夏に「困ってない?」と聞きたくなった。でも、答えによっては、また自分から迎えを申し出そうだった。

教室が終わるまで、電話は鞄に入れておいた。

縁を直そうとして、反対側が少しへこんだ。先生が「何を入れる器にします?」と尋ねた。

航のおやつに、と思いかけた。家にはもう、航が使う器がある。

「まだ決めてないです」

先生は「では、形から」と言った。美佐子は小鉢を手前へ回した。誰に渡すかも、何に使うかも決まっていないものを、もう少し作っていたかった。

この話、実際なら?|孫の送迎を、続けられる形にする

美佐子が木曜を守れたことで、娘夫婦の負担が消えたわけではありません。祖父母の援助を見直すときは、気持ちの話と、翌日から子どもを誰が迎えるかの話を、両方進める必要があります。

1.「送迎」に含まれる仕事を分ける

迎えに行く、帰宅後に見守る、夕食を出す、保護者へ引き渡す。どこまでを頼み、何時までを引き受けるのかを確かめます。食事代や交通費、急な延長、体調が悪い日の対応も、曖昧なままにしないことが大切です。

すでに約束した日を変更するなら、早めに伝え、保護者と引き継ぎを確認しましょう。園には迎えに来る人を事前に共有し、園の本人確認・引き渡しのルールに従います。子どもを迎える人が決まらないまま、当日に連絡を断つような変更は避けてください。

2.祖父母以外の送迎・預かりも、先に調べる

こども家庭庁のファミリー・サポート・センター案内では、援助を受けたい会員と援助を行いたい会員の活動をセンターが調整する仕組みが示されています。現行の実施要綱(PDF)には、保育施設等への送迎や、保育終了後の預かりが含まれます。

利用には会員登録や調整が必要です。対象年齢、活動時間、料金、送迎方法、事前の顔合わせ、病児・緊急時に対応できるかは、居住地域の窓口で確認してください。希望する日時に援助者が見つかるとは限らないため、翌日から必ず代わってもらえる前提で予定を組まず、保護者自身の勤務調整や園の延長保育等も含めて検討します。

3.予定を減らすことと、孫との関係を切ることを分ける

定期的な送迎を減らして、休日に短い時間だけ一緒に遊ぶこともできます。祖父母が負担を減らしたいなら、娘・息子本人だけでなく、そのパートナーも含めて、子どもの保護者がどう分担するかを話す機会を作りましょう。

友人関係で役割を引き受けすぎる悩みには、聞き役を休みたいと伝える別のSTORYもあります。ただし送迎には子どもの安全が伴うため、「断る言葉」だけでなく、引き継ぎの段取りまで必要です。

次の一歩|次の1週間の迎えを、保護者と確認する

曜日、迎える人、預かる場所、引き渡す時刻を書き出し、祖父母ができない日も最初から入れておく。埋まらない日は、保護者が園や地域の子育て支援窓口へ相談する。援助を減らす話を、祖父母の愛情を測る話にしないことから始めてみてください。

※公的資料は2026年10月11日に確認。ファミリー・サポート・センターの利用条件・料金・対応範囲は地域で異なります。