仕事・第二の人生

「私が教える側だったのに」48歳、新しいシステムを後輩に聞けなかった

会議室で新しい受注システムを操作する48歳の女性と、説明する若手の同僚

長く続けてきた仕事なのに、画面が変わっただけで手が止まる。操作そのものより、「できない自分」を見せる方が難しいことがあります。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。

STORY|そのボタンなら、もう知っている

「そこ、私がやりますね」

隣から伸びてきた手に、真帆はマウスを譲らなかった。

「大丈夫。今、確認してるだけだから」

48歳の真帆は、卸売会社で受注の仕事をしている。注文の変更も、急な納期の相談も、まず真帆に回ってくる。先月までなら、誰より早く片づけられた。

今月、受注システムが新しくなった。担当の悠斗は27歳。入社した頃、電話の取り次ぎから教えた相手だった。

悠斗は画面の右端を指した。「変更履歴は、こっちです」

「うん。それは分かってる」

本当は、分かっていなかった。真帆はカーソルを動かし、似た名前の別のボタンを押した。

悠斗が去ったあと、同じ画面を3回開いた。午前中に終わるはずの処理が、昼を過ぎても残っていた。

休憩から戻った同僚に「今日、忙しいね」と言われ、真帆は「変更が多くて」と答えた。注文の変更は、いつもと同じくらいだった。

「慣れればできます」に腹が立つ

翌朝、悠斗が短い説明会を開いた。検索、変更、確認。画面が次々に切り替わる。

「何度か触れば慣れると思います」

真帆は椅子の背から体を起こした。

「その何度かを、いつやるの? 電話を受けながら練習できないよ」

部屋が静かになった。言い方が強かったことは、自分でも分かった。それでも、すぐには引っ込められなかった。

悠斗は少し考えてから、「練習用の画面はあります」と答えた。

「画面があるのと、時間があるのは違うでしょう」

上司が、午後に交代で試す時間を取ろうと言った。真帆はうなずいたが、悠斗とは目を合わせなかった。

午後、会議室にはノートパソコンが1台置かれていた。悠斗と向かい合って座ると、真帆は先に言った。

「朝は、ごめん。説明が速いって言えばよかった」

「僕も、どこまで分かっているか聞かなかったです」

悠斗がパソコンを真帆の方へ向けた。

「今日は真帆さんが操作してください。僕は、聞かれたところだけ説明します」

それなら、と真帆はマウスを持った。最初の検索で、もう止まった。

「……変更する注文は出せた。でも、ここから先が分からない」

声にした途端、悠斗が答えた。今度は、どの説明を聞けばよいのか分かった。

操作は後輩、仕事の理由は私

練習用の注文で、納品先を変更した。保存の前に、真帆は手を止めた。

「このお客さん、請求先は変えないんだよね」

「両方変わる場合もあるんじゃないですか」

「ある。でも、店だけ移転して、本部に請求することもある。前の担当者から、そう聞いてる」

悠斗は、説明資料を開いた。納品先と請求先の違いは載っていたが、確認が必要な場面までは書かれていなかった。

「これ、僕だけで資料を作ったら抜けますね」

真帆は少し得意になり、それを隠すのをやめた。

「そこは、聞いてくれればいいよ」

「じゃあ、操作は僕が説明して、確認する理由は真帆さんに書いてもらえますか」

「仕事が増えるじゃない」

「そうですね」

悠斗が即答したので、真帆は笑ってしまった。できる人扱いされるのはうれしい。でも、何でも引き受ける話にはしたくなかった。

上司に相談し、まずは間違えやすい変更を3つだけまとめることになった。作業する時間は、通常の受注当番を交代して確保した。

翌週、その資料を使った同僚から質問が来た。真帆は説明しかけて、操作の順番を一つ忘れた。

「ちょっと待って。悠斗さん、ここ、もう一回」

悠斗が来て、3人で画面を見た。真帆は急に何でもできるようになったわけではない。まだ操作は遅いし、教わるときに身構えることもある。

ただ、その日は「分かってる」と言わなかった。

資料の最後に、悠斗が「困ったときの連絡先」を追加した。操作の相談には悠斗、注文内容の判断には真帆。真帆はその並びを見て、「逆にする?」と冗談を言った。

「どっちも聞かれるから、同じですよ」

今度は、その答えが気に入った。

この話、実際なら?|学び直しを、一人の根性にしない

新しい仕組みに戸惑うことと、それまでの経験が役立たなくなることは同じではありません。操作の習得と、業務上の判断を分けて考えると、何を教わり、何を共有できるかを整理しやすくなります。

1.「苦手」より、止まった場面を伝える

相談するときは、「全部分からない」だけでなく、「注文は検索できたが、変更履歴を開けない」のように、できたところと止まったところを伝えてみます。実際の顧客情報を使わない練習環境があるか、職場のルールに従って確認しましょう。

説明を聞くだけで終わらず、自分で操作して確かめる時間を相談するのも一案です。これは記事で提案する進め方であり、誰にでも同じ効果があると保証するものではありません。

2.目標と時間を、上司・同僚と共有する

厚生労働省の「学び直しQ&A」では、必要な能力や学びの目標を関係者で共有し、学ぶ機会と支援を確保する考え方を示しています。学び直しは、本人の意欲だけに任せるものではありません。

「今週は注文変更まで」「練習中は電話当番を交代できるか」など、目標、時間、相談相手を具体的にします。手順書を作る場合も、担当者と更新方法を決め、通常業務への上乗せにしないよう相談しましょう。

3.講座を選ぶ前に、必要な学びを絞る

目の前の操作を覚えたいのか、今後の仕事のために広く学びたいのかで、必要な支援は変わります。まず社内の研修や質問窓口を確認し、外部講座が必要なら、内容・時間・費用を比較してください。

仕事の方向性から整理したい場合、厚生労働省はキャリア形成・リスキリング支援センターなどで、働く人への無料のキャリア相談を案内しています。公式サイトで現在の申込方法を確認できます。勤務先での練習時間の相談を代わりにしてくれる窓口ではありません。

働き方そのものも考えたい方には、「定年後もこの会社にいる?」で、続けたい作業と生活の条件を整理する視点を紹介しています。

次の一歩|一つ教わり、一つ渡す

今日つまずいた操作を一つ、経験から説明できる判断を一つ、書き出してみてください。「この操作を教えてほしい。その代わり、ここで確認する理由は共有できる」。そんな相談から始めてもよいのです。頼ることと役に立つことは、同じ日にできます。

出典:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」「学び直しQ&A」。公的窓口情報は2026年10月9日確認。