おひとりさま・老後

「60代は難しいですね」で終わらせなかった。ひとり暮らしの私が、新しい部屋を借りるまで

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引越し先の1階の部屋で、黄色いカーテンを開けてほほえむ63歳の美津穂のイメージ

階段のない部屋へ移りたい。そう思って始めた住まい探しで、63歳の美津穂は、部屋を見る前に年齢を尋ねられました。断られても、自分で次の住まいを選ぶことを諦めなかった人のSTORYです。

※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。人物・出来事は架空です。

STORY|仕事のことは、聞かれなかった

「お年はいくつでいらっしゃいますか」

電話の向こうで尋ねられ、63歳の美津穂は答えた。気になったのは、商店街に近い1階の部屋だった。

「ああ、60代は難しいですね。こちらの物件は」

空室かどうかを聞いただけなのに、話が終わろうとしていた。家賃を払えるかも、仕事をしているかも聞かれていない。

「まだ働いているんですけど」

担当者は、貸主の意向だと繰り返した。美津穂は電話を切った後、物件の写真を閉じた。

離婚して15年。今のアパートでは12年暮らした。3階で、エレベーターはない。買い物袋を持って上がる途中、踊り場で荷物を置くことが増えていた。

誰かと住みたいわけではなかった。自分で買ったものを、自分の台所まで楽に運びたかった。

次の不動産会社では、候補を確認してから折り返すと言われた。翌日、「ご案内できる物件がありません」と返事が来た。

年齢を伝えただけで、暮らしぶりまで決めつけられたようで腹が立った。それでも、階段のない部屋へ移りたかった。

駅からの距離より、毎日の階段

市の住まいの相談窓口に電話すると、地域で相談を受ける居住支援法人を紹介された。予約日に、美津穂は収入が分かる書類と、気になった物件の情報を印刷した紙を持っていった。

印刷会社で週4日働いている。今の給与だけでなく、65歳以降の年金の見込額も調べていた。家賃の上限は、仕事を減らした後も払い続けられる額にしていた。

担当者は、希望条件を紙に書いた。1階。浴室とトイレは別。駅から徒歩10分以内。小さくても、食事をする場所と寝る場所を分けたい。

「全部そろう部屋は、すぐには見つからないかもしれません。優先したいのはどこでしょう」

美津穂は、「駅から徒歩10分以内」の文字へ丸を付けかけてやめた。通勤は、もう何年も同じ場所まで電車で行っている。駅に近いことを、ずっと当然の条件にしていた。

「階段です。買い物の帰りに、休まなくていい部屋がいいです」

駅からは少し離れても、職場へ行くバスがあり、食料品を買える場所が近い地域まで探すことにした。

相談したからといって、その日のうちに部屋が決まったわけではない。翌週に届いた候補は予算を超え、もう1件は2階だった。美津穂は、どちらも見送った。

兄に頼んだのは、保証ではなかった

支援法人の担当者には、保証会社を利用できる物件を探したいことと、緊急連絡先の条件も確認したいことを伝えた。

遠方に住む兄へ電話すると、「俺が家賃を保証するのか」と聞かれた。美津穂は、手元の案内を見ながら答えた。

「保証会社に家賃の保証を頼める部屋を探しているの。お兄ちゃんには、私と連絡が取れないときの連絡先をお願いしたい。どんな場合に連絡が来るのか、説明も一緒に確認してほしい」

兄は少し黙ってから、「書類を送って」と言った。説明を確かめ、引き受けてもらえることになった。

相談を始めて3週間ほどたった頃、バス停から歩いて4分の部屋を紹介された。古い建物だが、1階の角部屋だった。普通の民間アパートで、支援法人が管理している建物ではなかった。

台所と居室の間には引き戸があった。窓の向こうに、隣家の塀が見える。見晴らしはよくない。それでも、昼間の部屋は思ったより明るかった。

1階だからこそ気になる窓の防犯や湿気、周辺の災害リスクも確かめた。家賃だけでなく、保証料や初期費用を見積もってもらった。兄を緊急連絡先にできることも、不動産会社に確認した。最初に見た駅近くの部屋より、不便な点は確かにあった。

内見の帰り、バス停を通り過ぎてスーパーまで歩いた。そこから部屋へ戻る道に、急な坂はなかった。

「ここに申し込みます」

数日後、貸主と保証会社の審査を経て、契約へ進めると連絡が来た。美津穂は、仕事帰りのバスの中で、そのメールを3回読んだ。

新しいカーテンは、黄色にした

契約の説明を受け、費用を払い、今のアパートの退去日と引越し日を決めた。鍵を受け取った翌日、新しい部屋へ窓の寸法を測りに行った。

美津穂はメジャーを伸ばした。前の部屋のカーテンを使えば節約になる。でも、ずっと日に焼けた茶色を見てきた。今回は、黄色がよかった。

引越しの日、荷物を運び終えた部屋で、兄へ写真を送った。窓には新しいカーテンがかかっていた。

「明るいな」と返事が来たので、「天気がいいからね」と返した。

夕方、スーパーで牛乳と卵、それから小さなプリンを買った。いつもは「重くなるから」と見送ることもある牛乳を、今日はためらわずに買えた。

部屋に戻り、買ったものを冷蔵庫へ入れる。プリンだけ残して、スプーンを出した。

段ボールはまだ、開けていないものが5つある。今日は、先に食べることにした。

この話、実際なら?|60代からの賃貸の住まい探し

物語の入居結果は一例です。年齢、収入、物件、地域によって条件は異なります。断られたときも、別の不動産会社に加え、住まいの相談窓口を探す方法があります。

1.自治体や居住支援法人に、希望と困りごとを伝える

居住支援法人は、都道府県が指定する法人で、住宅情報の提供・相談、家賃債務保証、見守りなどの支援を行います。ただし、すべての法人が同じサービスを提供するわけではありません。自治体の住宅担当窓口や同省の法人一覧から、希望地域の対象者・支援範囲・費用を確認しましょう。

相談前には、家賃上限、収入と今後の見込み、初期費用、移りたい時期、譲れない条件をまとめます。階段だけでなく、買い物・通院の経路、窓の防犯、周辺の災害リスクも比べてください。

2.登録住宅と、見守りのある住宅を区別する

国土交通省の住宅セーフティネット制度では、高齢者など住宅確保要配慮者の入居を拒まない「セーフティネット登録住宅」を案内しています。物件ごとに、受け入れ対象、空室、家賃、契約条件を確認します。登録があるだけで、希望した人全員の入居や家賃補助が約束されるものではありません。

また、2025年10月に始まった「居住サポート住宅」は、日常の安否確認、訪問等による見守り、必要な福祉サービスへのつなぎを行う仕組みです。登録住宅すべてに、このサポートが付くわけではありません。支援内容と費用を別途確かめます。

3.保証会社と緊急連絡先の役割を確認する

家賃債務保証は、滞納家賃等について保証する仕組みです。利用できる会社や審査、保証料、保証の範囲は契約で異なります。保証会社が支払ったからといって、借主の返済義務がなくなるわけではありません。

緊急連絡先は、連帯保証人とは役割が異なります。連絡先を引き受けるだけで家賃を保証するわけではありませんが、書類に保証契約などが含まれていないかも確認してください。誰を認めるか、どんな場合に連絡するかを貸主・管理会社等へ聞き、相手の承諾を得てから届け出ます。

参考:高齢者住宅財団「家賃債務保証制度 よくあるご質問」(同財団の制度の例)、国土交通省中部地方整備局掲載・居住支援勉強会資料(PDF・3~4ページ)。

次の一歩|譲れない条件を、1つ決める

家賃の上限とは別に、「毎日の階段をなくす」「通院しやすい」など、住み替えで変えたいことを1つ書き出してみましょう。相談窓口には、希望だけでなく、これまで断られた経緯も伝えられます。次の住まいの見通しが立つ前に、今の賃貸契約の解約を急がないことも大切です。

退去時のお金については、「敷金は全部戻ると思っていた。退去の日、棚の跡と床の傷を見た」でも描いています。戻る敷金を当てにしすぎず、引越し全体の費用を考えましょう。

※実用情報は2026年10月25日に上記資料を確認。募集状況、入居審査、費用、利用できる支援は地域・物件・事業者等により異なります。