離れて暮らす親へ、食事を届けたい。冷凍弁当なら好きなときに温められる。そう考えて送った10食分は、母には少し違う意味を持っていました。
※この記事のSTORY部分は、実際に起こり得る状況をもとに構成したオリジナルフィクションです。登場する商品・事業者は架空です。
STORY|冷凍室の引き出しが、閉まりにくかった
母の佳江が冷凍室を引くと、崇之の送った弁当が、きれいに重なっていた。
「食べてないの?」
「2つ、食べたよ」
10食分を送ってから、10日ほどたっていた。崇之は残る8つを見て、電話で聞いた「助かった」の意味を考えた。
50歳の崇之は、車で1時間ほど離れたところに住んでいる。77歳の母は一人暮らしだ。足が痛む日があり、「お米と牛乳を持って帰るのが、しんどい」とこぼしたのが始まりだった。
買い物に行く回数を減らせれば、楽になる。会社から帰った夜、崇之は、主菜と副菜が入った冷凍のおかず弁当を探した。
「少しなら、試してもいいよ」
母は電話でそう答えた。崇之が選んだのは、まとめると送料の負担が小さくなる10食のセットだった。定期便ではなく、1回だけ。気に入らなければ次を頼まなければいい。そのくらいの気持ちだった。
受け取った日の電話では、「入れた。ありがとう」と言っていた。
今日は、近所のスーパーまで母を車で送るつもりで来た。買った冷蔵・冷凍の品を運ぶため、保冷バッグと凍らせた保冷剤も持ってきていた。
母は冷凍室の奥に手を入れ、トレーの向きを変えた。端に押し込まれた小さな包みは、自分で冷凍したご飯だった。
「これが入ってると、いつものご飯を置くところが減るの」
崇之は、空いている冷凍室へ弁当が入る画像しか見ていなかった。母の家の、いまある引き出しは見ていなかった。
温めれば、終わりではなかった
「でも、温めるだけでしょ。作らなくていいし」
崇之が言うと、母はトレーを1つ取り出した。目を近づけ、裏の表示を見る。それから電子レンジの前へ移動し、もう一度ひっくり返した。
母のレンジには、500Wと600Wの切り替えがあった。表示を確かめる間、トレーを置く場所を空ける。フィルムをどう扱うのかも、商品によって気になったという。
「いつものご飯なら、考えないでできるんだけどね」
できないわけではない。母は表示のとおりに設定して温めた。ただ、初めての物を毎回確かめる手間を、崇之は「だけ」の中へ入れていなかった。
2人で味をみた。魚は悪くない。煮物も、母はおいしいと言った。
「じゃあ、何が嫌なの」
言い終わって、崇之は箸を止めた。母は小鉢の方を見ていた。
「嫌だから食べない、じゃなくて。今日は煮物が残ってるから、これを食べようってなるでしょう。そうすると、こっちは明日でいいかって」
母が買い物を減らしたいことと、食事を全部用意してもらいたいことは、同じではなかった。
「私が大変だって言ったの、お米でしょう」
崇之は、自分が一度の注文で済ませたかったことを、言わずにいた。
来られない日も、先に伝えた
台所には、買い物のメモがあった。米、牛乳、卵。それから、白菜には「小さいの」と添えてあった。
「毎週は来られないよ」
崇之は、頼まれる前に言った。母は少し眉を上げた。
「まだ、何も言ってない」
それもそうだった。
来月、車を出せる日を伝えた。母の希望する日に全部は合わなかった。米は母と量や銘柄、受け取れる日を確かめ、配送を使うことにした。牛乳や野菜をどうするかは、スーパーの配達条件も見てから決める。
弁当は、残った分を全部持ち帰ることになった。味見で1食分を開けたので、7食になっていた。溶けないよう、凍らせた保冷剤を十分に入れたバッグへ移し、そのまま家へ帰った。
家の冷凍室には、置き場所がなかった。崇之は自分の冷凍うどんを出し入れし、隣の引き出しも開け、ようやく納めた。
翌日の夕食は、その弁当だった。ご飯は別に用意する商品で、米を研ぎながら、母が残していた小さな包みを思い出した。
母から電話が来た。
「お弁当、無理に続けて食べなくていいからね」
「冷凍だから、置いとけるよ」
そう答えてから、自分で少し笑った。母は理由を聞かなかった。
この話、実際なら?|親に宅配弁当を送る前に確かめたいこと
届いた量と、実際に食べられる量は違います。「利用を嫌がる」とひとまとめにせず、買い物、調理、保存、温め、片づけのどこが負担なのかを確認すると、選び方が変わります。
1.困りごとと、本人の食事に合うか
厚生労働省の配食利用者向けパンフレットは、身体・健康・食事の状況を事業者へ伝えること、量や食べにくさは相談することを案内しています。家族の判断だけで、どの弁当でも栄養面の心配が解決すると考えないようにしましょう。
味や量に加え、ご飯が付くか、噛む力や飲み込む力に合うか、食物アレルギー、医師からの食事指導の有無を確認します。食欲低下、体重の変化、むせるなどの心配があるときは、商品の変更だけで済ませず、かかりつけ医・歯科医などへ相談してください。
2.「受け取って、食べるまで」を一緒に試す
以下は編集部の確認案です。最初は本人が納得する少量や試食から始め、生活の動作まで確かめます。
- 受取日時と、不在時の取扱いは合うか。
- トレーの寸法・個数が、普段の食品を残した冷凍室に収まるか。
- 表示を読み、開封や加熱の操作が無理なくできるか。
- 1食の総額・送料、注文の頻度、休止や解約の条件はどうか。
冷凍でまとめて届く商品と、その日に食べる弁当の配達では、保存・受取の方法が異なります。配達があるだけで安否確認まで受けられるとは限りません。見守りを目的にするなら、その対応内容も別に確認しましょう。
3.保存と加熱は、商品の表示に従う
農林水産省の食品保存の案内は、表示された保存方法を守り、冷蔵・冷凍が必要な食品は速やかに適した場所へ入れるよう案内しています。容器の見た目だけで、常温で置けると判断しないでください。
冷凍弁当も、加熱時間・出力・フィルムの扱いは商品ごとに確認します。日本冷凍食品協会の保存案内は、一度解けた冷凍食品を再凍結しないよう示しています。保存状態が分からない食品を、「もったいないから」と食べることは勧められません。
家族が用意した物と、本人が使いたい場面のずれは、「補聴器は、引き出しにしまっていた。母が聞きたかったのは、テレビではなかった」でも、別の親子の暮らしから描いています。
次の一歩|「何を送ろう」より先に、一食の様子を聞く
昨日の食事を、用意するところから片づけまで聞いてみましょう。重い物だけ配送する、できる日の買い物を一緒にする、配食を一部の曜日に使うなど、支え方は組み合わせられます。届ける家族にも続けられる範囲があることを含め、本人と選ぶところから始めます。
※実用情報は2026年10月19日に確認。利用条件・価格・食事内容は事業者によって異なります。特定の商品や治療食を推奨する記事ではありません。
