相続・実家

実家の土地が、ひい祖父の名義だった。売却の相談より先に、家族をたどった

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実家の座敷で古い写真の人物を指す79歳の叔母と、床に広げた家族関係のメモを確かめる57歳の甥

実家を手放すつもりで調べた土地に、何代も前の名前が残っていた。自分たちの家だと思っていた57歳の男性が、売却の話より先に、相続のつながりを調べ始めるSTORYです。

※この記事のSTORY部分はオリジナルフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。

STORY|売るつもりの土地に、知らない名前

「建物と土地で、お名前が違いますね」

不動産会社でそう言われ、玲司は登記の書面を引き寄せた。建物には亡くなった父の名前がある。土地の所有者の欄には、善蔵、とあった。

ひい祖父だということは知っていた。顔は思い出せなかった。

57歳の玲司は、昨年亡くなった父の実家を売ろうとしていた。母はすでに亡く、弟も自分もそこへ戻る予定はない。2人で売ると決めれば進むと思っていた。

固定資産税の書類は父が保管していた。父が払い、今は玲司が支払いを続けている。家の鍵も持っている。それなのに、土地の名義は父ですらなかった。

「昔の名前が残っているだけですよね」

玲司は、窓口で訂正すれば済むような口調で聞いた。まず相続の経緯を確認してほしいと言われ、売却時期の話はそこで止まった。

「うちの土地」の、うち

父の妹の繁枝に電話すると、「おじいさんの名前なら、そのままかもしれないね」と言われた。79歳の叔母の記憶には、何人もの親戚が出てきた。

「でも、ずっと父さんが住んでたんだよ」

「それはそうよ。私も、そういう家だと思ってた」

同じことを言っているのに、答えにならなかった。

日曜、叔母が実家へ来た。座敷で古い写真を広げ、写っている人を指した。玲司は大きな紙に名前を書いた。知っている呼び名と、戸籍で必要になる氏名が、すぐには結びつかない。

「この人は、おじいさんの弟?」

「違う。それは奥さんの方の親戚」

線を引いては消した。弟は横から「そんな遠い所まで関係あるの?」と聞いた。玲司も、そこを知りたかった。

叔母は、家を出た人はもう関係ないのでは、と言った。玲司はうなずきかけたが、その言葉を紙の端へ、疑問符を付けて書いた。

家系図の空欄は、権利の空欄ではない

登記の相談には、土地と建物の書面、税の資料、家に残っていた封筒、それから書きかけの家族の図を持っていった。

司法書士と確認すると、名義人から誰へ、いつ相続がつながったかを、戸籍や過去の遺産分割の資料等で確かめる必要があった。古い時代の相続なら、その時に適用された制度も関係する。玲司が線を引いた順番どおりとは限らなかった。

「知っている親戚だけで、判をもらえばいいわけじゃないんですね」

そう口にしてから、まだ資料を集めてもいない自分が、もう判のことを考えていたと気づいた。

調査と登記の見通しを分け、まずどの範囲を調べるか、費用も含めて依頼内容を確認した。家にある古い書面は、もう要らないと処分せず、そのまま見てもらうことにした。

数週間で全部が分かったわけではない。取り寄せる戸籍の範囲が増え、昔の本籍をたどる作業も残った。弟は「売っても大して残らないかもしれない」と言った。玲司は、売るのをやめればこの話も終わる、と考えたくなった。

最初の手紙に、署名欄はなかった

調査で関係を確認できた親族へ、事情を知らせることになった。玲司は、売却に協力してほしいと書き始めた。

書きかけた文章を読み直すと、自分たちが売ると決めた土地について、他人に手伝いを頼む文面だった。相手にどんな権利があるのか、まだ説明できない所が残っているのに。

確認できた経緯と、調査中の点を分けた。残っている資料を尋ね、まず話す機会をお願いする手紙にした。署名や印鑑を求める紙は入れなかった。

返事の一つには、「父から土地の話は聞いています。そちらの資料も見せてください」とあった。

玲司には初耳だった。父が何を聞いていたのか、相手の父が何を話したのか。知らないまま、どちらかの記憶を正しいとは言えなかった。

その家には今も玲司が通い、草を刈っている。弟との間では、当面の管理費をどう分担するか決めた。土地の結論が出る日までは決められなかった。

叔母に写真を返そうとすると、善蔵を指して「玲司、鼻が似てる」と言われた。

「最初にそれ言ってよ」

玲司は写真をもう一度見た。叔母の言葉は、戸籍の代わりにはならない。それでも今度は、善蔵の顔を覚えた。

この話、実際なら?|先祖名義の土地は、相続の順番から確認する

1.税金の支払いと、登記名義は別に確認

まず土地・建物それぞれの登記事項証明書を取り、名義人、地番・家屋番号、権利の記録を確認します。固定資産税の通知や長年住んだ事実だけで、相続登記が済んでいるとは判断できません。

市区町村へ届ける相続人代表者や現所有者の申告も、法務局での相続登記とは別の手続きです。税の資料は物件を調べる手掛かりとして使い、登記記録と照合しましょう。

出典:日本司法書士会連合会「相続登記未了が引き起こす問題点」/相模原市「固定資産税の概要」(税の申告と登記の区別)

2.「何代も前」ほど、死亡の順序と当時の制度が重要

ある相続の手続きが終わらないうちに相続人が亡くなり、次の相続が重なることを数次相続といいます。必要な戸籍や関係者が増えることがありますが、名義が古いからといって、今いる子孫全員が同じ権利を持つとは限りません。

各人の死亡時期、親族関係、過去の遺言・遺産分割等を確認します。明治生まれの名義人でも、相続が起きた時期によって適用法は異なり、旧民法下の家督相続等を確認すべきケースもあります。長男だから当然に全部取得した、とも決められません。

戸籍から相続関係を図にまとめると整理に役立ちますが、家族が作った家系図や相続関係説明図だけで権利が確定するわけではありません。法務局が戸籍との適合を確認して交付する「法定相続情報一覧図の写し」とも区別してください。

出典:日本司法書士会連合会「数次相続の対処法」/同「旧民法の家督相続と現在の相続」/同「法定相続情報証明制度」

3.売る予定がなくても、登記の期限を確認する

2024年4月1日から、相続の開始と、その不動産の所有権を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務があります。施行前から取得を知っていた未登記の相続分も対象で、原則2027年3月31日までの対応が必要です。施行後に取得を知った場合等は起算点が異なるため、個別に確認します。

分割がまとまらない場合等には、自身が相続人であること等を法務局へ申し出る「相続人申告登記」も確認します。ただし、申出をした人の基本的な申請義務を履行するための制度で、所有権の取得を公示する登記ではありません。これだけで土地全体を売れるわけではなく、その後の遺産分割で取得した場合は、分割の日から3年以内の登記も別に必要です。

出典:日本司法書士会連合会「相続登記義務化でどう変わる?」/法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

次の一歩|「誰の判が要るか」より前に資料を

登記事項証明書、税の明細、家に残る戸籍や協議書、分かる範囲の親族関係と死亡時期をまとめて相談へ。登記の手続きは法務局・司法書士、相続をめぐる対立や交渉は弁護士へ確認します。行政書士へ戸籍収集や合意済みの協議書作成等を依頼する場合も、登記申請の代理とは担当を分けましょう。

戸籍と、財産の分け方を決める書類の違いは、「父の口座が凍結された。『ハンコだけお願い』に、妹はうなずかなかった」でも描いています。名義を整理した先の選択肢は、「相続した実家はどうする?売る・貸す・残すを比較」をご覧ください。

※制度情報は2026年10月21日に公的機関・制度関係団体の一次情報を確認しました。必要な相続人調査や登記は、相続の時期・戸籍・過去の合意等によって異なります。個別の権利関係と期限は法務局や適切な専門家へ確認してください。