息子の奨学金は、自分が返すつもりだった。けれど、仕事の手当が減り、毎月の送金が苦しくなった。援助をやめたい父と、その約束を信じて暮らしていた息子のSTORYです。
※この記事のSTORY部分はオリジナルフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。
STORY|「自分で返せ」と言う前に
給料日、54歳の省吾は、息子への振込金額を2万円から1万円に変えた。
確認画面で手が止まった。悠斗には、まだ何も伝えていない。
毎月2万円。大学を出た息子が奨学金を返し始めてから、約4年送ってきた。実際の返還月額は2万円より少し多く、差額は悠斗が払っていた。
省吾は送金を確定せず、画面を閉じた。
先月、工場の夜勤がある部署から昼間の部署へ異動した。手取りが減り、生活費と送金を支払うと赤字になる。先月は貯金を取り崩して補った。同じことを毎月続けるのは難しかった。
26歳の悠斗は、もう働いている。そろそろ自分で払ってもいいだろう。
そう考えると、少し気が楽になった。
息子が覚えていた言葉
その夜、電話で「来月から、奨学金は自分で返してくれないか」と切り出した。
悠斗はすぐには答えなかった。
「父さんが返すって言ったよね」
「あのころとは、こっちも事情が違うんだよ」
「だったら、先に言ってほしかった」
大学進学が決まったとき、省吾は学費を全額は出せなかった。日本学生支援機構の貸与奨学金を申し込む悠斗に、「借りるのはお前の名前だけど、卒業したら父さんが返す」と言った。
いつまで、とは決めなかった。だが、息子が働き始めたら終わり、という話もしていない。
「もう4年も出してるんだから」
言った直後、電話の向こうが静かになった。
「ありがとうとは思ってる。でも、4年たったら終わりって、今日初めて聞いた」
省吾は、異動して手取りが減ったことを話した。悠斗は「分かった」と言ったが、送金をやめることに同意したわけではなかった。日曜に会って話すことになった。
自分の家計も、見せる
悠斗のアパートには、台所の壁際に細いカウンターがあった。休日の昼、省吾はそこへ、自分の給与明細と家計のメモを置いた。
息子の収入と支出を見せてもらうつもりで来た。だが、自分の話を先にしなければ、ただの節約の説教になりそうだった。
悠斗も、家賃や光熱費を書いた紙を出した。
「今月なら、自分の預金から払える。でも、来月からずっと全部となると、予定を変えないといけない」
通勤に使う車の買い替えに備えて、毎月積み立てているという。
「車の貯金より、借りた金を返すのが先じゃないか」
悠斗は紙を引き寄せた。
「その順番も、父さんが2万円出してくれると思って決めたんだよ」
省吾には、甘えているように聞こえた。けれど、自分が一度引き受けた分を息子の支出に戻せば、その生活が変わる。数字を並べれば、どちらかがすぐ納得すると思っていた。
2人の紙には、それぞれ毎月残しておきたい金額も書かれていた。省吾は、息子の分だけを減らせとは言えなくなった。
「ずっと同じ額を出せると思ってた。今は無理だ。言うのが遅くなった」
悠斗はうなずいた。それでも、「もう自分で返せ、で終わりにはしてほしくない」と言った。
まず5か月分の送金を決める
悠斗は、月々の返還額を減らせる制度の案内を、スマートフォンで見せた。申し込める条件や必要な書類は、まだ確かめていないという。
「返す期間は長くなるんだって」
省吾は「それを使えば」と言いかけた。だが、自分の送金を減らせるかどうかだけで、息子の返還期間を決める話ではなかった。
その日は、今月と来月は2万円を送り、その翌月からの3か月は1万円にすることで話がついた。その間の不足分は、悠斗が預金から出す。減額返還を利用できるかは悠斗が調べ、1万円ずつ送る3か月が終わる前に、もう一度話す。
その5か月より先の援助は、まだ約束できなかった。悠斗も、その後は一切頼らないとは言わなかった。
帰り際、省吾が「昼、何か食べるか」と聞くと、悠斗は「あるもので済ませる」と答えた。いつもなら一緒に行く近所の定食屋へ、その日は行かなかった。
家に戻って、省吾は2万円を振り込んだ。悠斗から「入った。ありがとう」と届いたあと、次のメッセージが来た。
「今日の話、金額と月を確認したいから、送っておいて」
省吾はカレンダーを開いた。送金する月と金額を一つずつ書き、返信した。
この話、実際なら?|奨学金の返済を親が援助しているとき
親の援助をどう見直すかと、奨学金をどの条件で返還するかは、両方確認する必要があります。「社会人だから自分で」「親が約束したからずっと」と言い合うだけでは、次の引落しへの対応が決まりません。
1.返還義務と、親の援助の約束を確認する
JASSOの貸与奨学金は、借りた本人に返還義務があります。親が援助していても、そのことだけでJASSOに対する本人の義務が親へ移るわけではありません。人的保証では連帯保証人・保証人にも請求等が行われる場合があるため、保証の種類と自分の立場も確認します。
親子で交わした約束の法的な扱いは別の問題です。争いになっている場合は、当時のやり取りを残し、弁護士等へ相談してください。
2.月額を減らす制度と、待ってもらう制度を調べる
減額返還は、経済困難等で通常の月額は難しくても、減額すれば返せる場合の制度です。返還期間を延ばす仕組みで、返還予定総額が減るものではありません。所得連動返還方式では利用できないなどの条件があり、願出・審査時点で延滞していないことも必要です。
返還期限猶予は、失業や経済困難等の事情で、承認された期間の返還を先送りする制度です。免除ではありません。どちらも親の援助が減っただけで自動的に利用できるものではなく、本人の事情に応じた申請・審査が必要です。
出典:JASSO「減額返還制度の概要」「返還を待ってもらう」
3.申請しただけで、引落しが止まるとは考えない
JASSOは、猶予の審査中も口座振替請求等は停止しないと案内しています。次回の返還日と金額、利用開始までの扱いを早めに確認しましょう。すでに延滞している場合も、放置せず、利用できる手続きを相談してください。
また、親による無償の肩代わりは贈与税の検討が必要になる場合があります。資力を喪失して弁済困難な場合の例外等もあり、「教育のためだから常に非課税」とは扱わず、金額や事情に応じて税務署・税理士へ確認します。
次の一歩|次回の返還と、援助を見直す月を確認する
返還月額・次回返還日・残額・保証の種類を本人が確認し、親子では「いくらを何月まで援助するか」「次にいつ話すか」を具体的にします。JASSO以外の奨学金は、貸与した団体へ確認してください。
お金以外の援助を見直す物語には、「孫はかわいい。でも、木曜のお迎えには行かない」もあります。こちらは、祖母が引き受けてきた送迎と、自分の予定をめぐる話です。
※制度・公式資料は2026年10月24日に確認。物語中の月2万円は架空の援助額で、制度の基準額ではありません。
