人間関係

初めてのひとりライブ。翌朝、買ったTシャツでスーパーへ行ったら

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ライブ翌朝のスーパーで同じ鳥柄のTシャツに気づき、言葉を交わす和佳と別の買物客のイメージ

好きな歌手のライブに行きたい。でも、誘える友人がいない。54歳の和佳は、空いていた1席を申し込みました。初めてのひとりライブで気にしていたのは、入場の仕方と、周りから浮かないこと。そして、買うつもりのなかった1枚のTシャツが、帰りの荷物に加わります。

※この記事のSTORY部分はオリジナルフィクションです。人物・アーティスト・公演・出来事は架空です。

STORY|隣の席は、知らない人

「1枚でいいんですか?」

チケットの購入画面に聞かれたわけでもないのに、和佳は枚数の「1」を、もう一度見た。

好きな歌手のコンサートだった。20代のころに買ったアルバムは、引っ越しを2度しても手元に残っている。ライブには行ったことがなかった。

友人の1人は土曜も仕事で、もう1人は「名前は知ってるけど、曲はあまり」と言った。無理に誘うほどではない。そうして見送った公演が、これまでに3回あった。

今回も販売終了まで待つところだった。一般販売のページには、まだ指定席が残っていた。

和佳は1枚を選んだ。購入完了のメールが届いてから、電車の乗換案内を開いた。

最初に流れたのは、昔の曲だった

当日までに、最近のアルバムを何度も聴いた。曲名と曲順を書き出しかけて、試験勉強ではないのだからと、やめた。

電子チケットは指定のアプリで表示できるようにした。充電器と、公演案内に書かれていた本人確認用の身分証を鞄に入れる。帰りの電車も調べた。

服だけは、最後まで決まらなかった。

応援する人の名前が入った服を着るのは、自分には似合わない気がした。かといって、仕事帰りのようでも落ち着かない。いつも外出するときの服にした。

会場前には、すでに人が集まっていた。若い2人組の後ろに、和佳より年上に見える男性が1人で並んでいる。少し離れたところでは、親子らしい2人が、同じTシャツのサイズを比べていた。

物販の見本には、胸に大きな鳥の絵が入ったTシャツがあった。

かわいい、とは思った。けれど、4,000円。チケットと交通費で、今日はすでに十分使っている。

和佳は売場の前を通り過ぎた。

指定された2階席に着くと、右隣の女性が会釈した。和佳も頭を下げた。そのあと、会話は続かなかった。和佳は上着を膝に置き、開演を待った。

照明が落ち、最初の音が鳴った。

知っている曲だった。3曲目も、5曲目も、昔のアルバムに入っていた曲だった。最近の曲を一生懸命に覚えたのに、とおかしくなった。

歌い手の声は、家で聴くときより少しかすれていた。サビの最後を短く切ったあと、客席に顔を向けて笑った。

和佳は、そこが好きだと思った。アルバムと同じに歌う人を見に来たのではなかった。

知らなかったのは、その1曲

中盤、歌い手が「長く歌っていなかった曲を」と言った。

客席から声が上がった。右隣の女性が、両手を胸の前でぎゅっと握った。

和佳には、聴き覚えがなかった。さっきまで楽しかったのに、急に自分だけ置いていかれた気がした。

周りに合わせて口を動かそうとして、やめた。歌詞を知らないのだから、聴いていればいい。

2番に入るころには、1番で聴いたメロディーを追えるようになった。体を少し揺らす。最後の音が消えたときには、隣の女性と同じくらい長く拍手していた。

アンコールが終わり、明かりがついた。右隣の女性が、目元を指で押さえていた。

「あの、途中の、久しぶりに歌うっておっしゃった曲……」

和佳が尋ねると、女性は曲名を教えてくれた。ずっと生で聴きたかったのだという。

「私、今日初めて聴きました。すごくよかったです」

「いいですよねえ」

それだけ話し、出口へ向かう人の列に加わった。階段を下りたところで、女性は手を振って別の出口へ歩いていった。

4,000円の、行き先

終演後も、物販は営業していた。鳥のTシャツが、まだ掛かっている。

和佳は一度通り過ぎてから、引き返した。

今月、外食に使えるお金はあと6,000円ほどある。今日の夕食を予定していた店から駅のそばの定食屋に変えても、Tシャツ代の全部が浮くわけではない。来週の外食を1回減らせば買える。

そこまで計算して、列の最後尾に並んだ。

「こちら、Mでよろしいですか?」

和佳は店員に寸法を確かめてから、うなずいた。買ったTシャツを入れると、鞄は開演前より大きく膨らんだ。

帰りの電車で、教えてもらった曲名を検索した。昔のシングルの、2曲目だった。持っていないCDだ。

通販の画面を開きかけ、今日はやめておいた。まずは家で、その曲をもう一度聴こうと思った。

翌朝、和佳は買ったTシャツを着た。洗面所の鏡に、鳥が大きく映った。

そのまま近所のスーパーへ行った。冷凍食品の前で、見知らぬ女性に声をかけられた。

「昨日の?」

女性は上着の前を少し開いた。同じ鳥がいた。

「昨日のです」

和佳は答えた。2人の籠には、同じ冷凍うどんも入っていた。

この話、実際なら?|初めてのひとりライブで確かめておくこと

1.「1人で行けるか」より、買う前に公演条件を確認する

1枚から購入できるか、指定席か立見か、年齢制限があるかなどは公演ごとに異なります。アーティストや主催者の公式サイトから販売先を確認し、日時・会場・席種・料金に加え、発券方法、本人確認、払戻しの条件まで読んでから申し込みましょう。

検索結果やSNSの「譲ります」という投稿を、正規の販売と取り違えないことも大切です。転売サイトで購入したチケットでは入場できない場合があります。文化庁も、行けなくなった場合は主催者が案内する公式リセールなどを確認するよう案内しています。出典:文化庁「チケット不正転売禁止法に関するQ&A(消費者向け)」。

2.入場方法と、帰宅までの段取りを先に決める

電子チケットの表示方法や必要なアプリ、本人確認書類などは、購入した公演の案内で確認してください。スマートフォンの充電を済ませ、当日に通信や操作で困った場合の問い合わせ先も把握しておくと安心です。

開場時刻と開演時刻は別です。会場までの所要時間に余裕を持ち、終演予定や最終電車も確認します。退場の混雑で予定どおりに動けないことも考えて、帰り方を決めておきましょう。撮影、荷物、応援グッズの使用なども公演のルールに従います。

3.チケット代以外も含めて、使える金額を決める

交通費、食事代、物販などを合わせた総額で考えます。現地で欲しくなったグッズも、予算内なら楽しみの一つです。

すべての曲を覚えることや、隣の人と親しくなることを参加の条件にする必要はありません。立つ・座る、声を出すといった楽しみ方は、席種や主催者の案内、周囲への配慮を踏まえて選んでください。

次の一歩|行きたい公演の公式案内を、1つ開く

行きたい公演の公式案内で、チケット1枚の購入条件、当日の入場方法、帰宅経路を確認してみましょう。購入前に総予算を書き出すと、会場で何を楽しむかも選びやすくなります。

1人で出かける楽しみを描いた物語として、「『2名様から』でメニューを閉じた。ひとり外食で、私が頼んだ2皿」も、あわせてご覧ください。

※資料・案内は2026年10月30日に確認。物語内の金額や運営方法は架空の公演の設定です。実際の販売・入場・リセール等の条件は、それぞれの公演の最新案内を確認してください。