娘の結婚式に、離婚した元夫も出席する。56歳の珠希は、同じ会場にいることよりも、「家族写真」で並ぶことが気になっていました。娘を祝いたい気持ちと、元夫とは親しく話したくない気持ち。その両方を抱えたまま、式の日を迎えます。
※この記事のSTORY部分はオリジナルフィクションです。人物・出来事は架空です。
STORY|「家族写真」という予定
届いた進行表の中で、珠希が最初に見たのは、撮影の欄だった。
新郎新婦と新婦の父母。新婦と父母。
娘の結衣からは、前もって話を聞いていた。父にも来てほしい。一緒に写った写真も残したい。ただし、無理なら別々に撮りたい。
珠希は、一緒の撮影を了承した。席は離してもらい、控室も別にした。それで当日の心配は減るはずだった。
12年前、娘が16歳のときに離婚した。夫婦の話し合いは、何度しても最後には同じ言い争いになった。結衣は珠希と暮らし、父親とは連絡を取り続けた。養育費は取り決めどおりに振り込まれた。
だからといって、珠希が過去の言葉を忘れたわけではない。元夫と顔を合わせるのは、結衣の成人式以来だった。
進行表を閉じた。娘の晴れ姿を見る日だ。大人らしく、滞りなく終えたい。写真の中だけなら、できると思った。
覚えていないこと、覚えていること
当日、控室を出た廊下で、元夫の誠晴に会った。
「お久しぶりです」
自分からそう言うと、誠晴も「久しぶり」と返した。少し話すだけで、昔の呼び方に戻りそうになる。それが嫌で、珠希は手元の小さな鞄を持ち直した。
「結衣、小さいころは、あんなに人前へ出るのが苦手だったのにな」
誠晴が言った。
「運動会のとき、ずっと泣いてた」
珠希は思わず顔を上げた。
「それ、結衣じゃない。隣の組の子」
結衣は緊張していたが、泣いてはいなかった。踊りの途中で靴が脱げ、それを拾ってから列に戻ったのだ。
「ああ、そうだった。靴だ」
「2人でビデオを見たでしょう」
言った途端、その晩の居間まで思い出した。まだ3人で同じ家にいたころのことだった。
誠晴は「そうだったな」と言った。珠希は、それ以上、思い出を並べる気にはなれなかった。
スタッフが呼びに来て、会話は終わった。
泣くのは、まだ先のはずだった
挙式前の撮影で、結衣が新郎と一緒に入ってきた。
珠希は、立ち上がるのが一瞬遅れた。写真で見たときより、ずっと明るい顔をしている。
「どう?」
結衣が小さく両手を広げた。
「すごくいい」
ほかにも言葉はあるはずなのに、それだけしか出なかった。
4人で並ぶよう案内された。新郎新婦を真ん中に、珠希と誠晴が両端へ立つ。
カメラマンがカメラを構えたところで、誠晴が顔をそむけた。
「お父様、少々お待ちしましょうか」
誠晴は、ハンカチを取り出していた。
珠希は驚いた。泣くなら、自分が先だと思っていた。娘が手紙を読む場面で泣くだろうから、ハンカチはすぐに出せる場所へ入れてある。
結衣が、父親をのぞき込んだ。
「お父さん、まだ何も始まってないよ」
「分かってる」
誠晴は答えたが、ハンカチを下ろせなかった。
「靴、脱げてないよ。今日は」
珠希が言うと、結衣は一瞬きょとんとしてから、「運動会の?」と笑った。誠晴も、目元を押さえたまま笑った。
そこで、シャッターの音がした。
珠希はカメラに向き直った。口元に力を入れなくても、さっきより自然に笑えた。
お開きのあとに、戻る場所
披露宴で、珠希と誠晴は別のテーブルに座った。結衣は料理を食べる暇もないほど、友人に囲まれていた。
珠希は娘の手紙で泣いた。決めていたとおりではなく、結衣が読み間違えて笑い、自分も笑った直後に涙が出た。
お開きのあと、誠晴が「今日は、ありがとう」と言った。
何へのお礼なのか、珠希には分からなかった。「こちらこそ」とは返せなかった。
「結衣、楽しそうだったね」
そう答えると、誠晴は「うん」とうなずいた。
珠希は自分で呼んだタクシーに乗った。誠晴がどこへ帰るのかは聞かなかった。
数週間後、結衣から撮影データが届いた。4人の写真の中に、誠晴がハンカチを持ち、結衣が口を開けて笑っている1枚があった。珠希も、こんな顔をしていたのかと思うほど笑っていた。
その1枚と、娘と2人で写った写真を印刷した。
2人の写真は部屋に飾った。4人の写真は、新しいアルバムの最初のページへ入れた。余白には、結衣の結婚式の日付を書いた。
この話、実際なら?|離婚した親が子どもの結婚式に出席するとき
1.出席と、同席・撮影・演出を一つの返事にしない
「出席する」と答えても、元配偶者と同じ控室や隣の席で過ごせるとは限りません。新郎新婦の希望を聞くとともに、自分が参加できる範囲も伝えましょう。一緒の写真が難しければ、別々の親子写真など、ほかの形を検討できます。
結婚情報を扱うゼクシィの案内でも、親の気持ちを確かめ、席を分ける、挙式だけ参列するなど、従来の形に縛られない方法が紹介されています。参考:「呼ぶ?呼ばない?両親が離婚している場合の結婚式」。紹介される事例や方法を、すべての家庭の正解と受け取る必要はありません。
2.当日に初めて知る予定を減らす
控室、席、撮影する組合せ、入退場の動き、司会からの紹介などを、準備段階で確認します。「両親」と一括りにせず、誰が、どの場面に参加するかを式場の担当者へ伝えると、必要な調整を具体化できます。家族間の事情は、運営に必要な範囲で共有すればよく、詳しい離婚理由まで説明する必要はありません。
親から元配偶者への不満を伝える役まで、子どもに背負わせない配慮も大切です。直接の連絡が難しければ、式場を通して確認できる事項を相談しましょう。
3.出席や写真を、和解の証明にしない
子どもを祝いたいことと、元配偶者への感情が整理できていることは別です。当日穏やかに話せても、その後の交流を約束する必要はありません。周囲が「これで仲直り」と決めつけないことも大切です。
暴力や脅し、強い恐怖など安全上の事情がある場合は、再会や同席を優先しないでください。出席を控える、別の機会に祝う、撮影を分けるといった方法も含め、安心して関われる形を選びます。
次の一歩|できることと、難しいことを短く伝える
「出席したい。控室は別にしたい」「写真は娘と2人なら撮れる」など、希望と難しいことを具体的に伝えましょう。返事を急げないときは、いつまでに確認するかを相談します。親も子も、気持ちを一度の返事ですべて整える必要はありません。
大人になった子どもとの関わり方を考える物語として、「孫はかわいい。でも、木曜のお迎えには行かない」も、あわせてご覧ください。
※参考資料は2026年10月31日に確認。結婚式の進行・対応は会場や家族の事情によって異なります。紹介した参考記事の事例・調査は掲載当時のものです。
