仕事・第二の人生

売れたレコードより、次の仕入れが気になった。片づけが副業に変わるまで

自宅のレコード棚の前で、盤を窓の光にかざして傷を確かめる51歳の稔彦を描いたイメージ

聴かなくなったレコードを手放しただけのつもりが、次は「売れそうなもの」を探していた。51歳の稔彦は、趣味の知識を仕事にできるかもしれないと思います。その期待には、まだ数えていない手間がありました。

※このSTORYはオリジナルフィクションです。人物・取引・売上・経過は架空で、実績や収益の目安を示すものではありません。

STORY|空いた棚に、次の仕入れを考えた

レコード棚の前で、稔彦は12枚を選んだ。学生時代から集めてきたもののうち、ここ数年は針を落としていない盤だった。

51歳。建材店で働く稔彦は、休日にレコードを聴くのが楽しみだった。棚はいっぱいで、新しい1枚を買うたび、妻に「置く場所は?」と聞かれる。少し減らせば、もう言われずに済むと思った。

フリマアプリへ出す前に、盤の傷を光にかざして確かめた。音飛びがないか、久しぶりに通して聴く。ジャケットの角の傷みも撮った。手間はかかったが、知らない誰かに雑なものを渡すのは嫌だった。

最初の購入者から「探していた盤でした」と連絡が来た。金額より、その一言がうれしかった。店では、商品を渡しても、こんなふうに言われることはあまりない。

数枚が売れると、稔彦は中古のレコードを売る店を見て回った。欲しかった盤より、安く出ている盤に目が行く。これなら、状態を丁寧に説明すればもう少し高く売れるのではないか。頭の中で送料を引いた。

その日は買わなかった。それでも帰宅してから、販売履歴を何度も見た。音楽をかけるより先に、相場を確かめるようになった。

友人と会ったとき、稔彦は「ちょっとした副業になるかも」と話した。

「じゃあ、俺のも売ってくれない? 売れたら少し渡すよ」

友人は楽しそうだった。稔彦も頼られた気になり、「来月には引き受けるよ」と答えた。扱う数も、作業時間も聞かなかった。帰宅後、販売用に買う盤を探していて、古物商許可という言葉に目が止まった。

自分で聴いていた盤の整理と、販売用に中古の盤を買うこと。他人の盤を預かって有料で売ること。どれも同じアプリの画面に見えるのに、確認することは同じではなかった。

妻にその話をすると、「申請を出せば始められるの?」と聞かれた。

「許可が出てから。取引の仕方も、先に確認する」

そう答えた自分の声が、少し仕事の声になった。

稔彦は友人の盤を預からず、販売用の買い付けも止めたまま、勤務先の副業ルールと申請先の案内を確認した。営業所、扱う品物、仕入れ方、売り方。許可の準備をするには、どんな商売にするかから決める必要があった。

相場の見方なら知っている。それが自分の強みのつもりだった。けれど、相手方の確認や記録、ネット販売での表示について読むと、知らない項目の方が多い。友人からも「まだ?」と連絡が来た。

「今回は自分で売ってもらえる? 僕が引き受ける準備は、まだできてない」

返事は「分かった」だけだった。期待させたのは自分だ。

稔彦は、自宅で始める場合の条件や非対面の仕入れについて、管轄の警察署へ予定を伝えて確認した。そのうえで、まずは店頭で仕入れ、自分で確認できる少数の盤を販売する計画にした。必要な書類をそろえて申請し、許可を受けてから最初の5枚を買った。

許可を取る費用も、盤を保管する場所も要る。買い付け、検盤、写真、説明、梱包、取引の記録。最初に思った「休日に少し」の中には、入れていなかった作業があった。

初めての商品を出した夜、稔彦はスマートフォンを何度も見た。翌朝も、売れていなかった。商品の説明を読み直すうち、自分が聴きたくて買ったときとは違う落ち着かなさを感じた。

数日後、5枚のうち1枚が売れた。梱包を済ませてから、手数料や送料、使った時間を書き出した。準備に使った費用まで考えると、これでうまくいったとは言えない。

棚の前で、次に買う盤を探しかけた。けれど、その日の夕方は、自分用の棚から1枚を抜いた。学生時代によく聴いた、ジャケットの角がすり切れた盤だった。

出品するなら、この傷は写真に撮らないと。そう考えてしまい、稔彦は苦笑した。

針を落とすと、曲が始まる前に小さな音がした。途中で売れたか確かめたくなったが、スマートフォンは梱包した箱の横に置いたままにした。

妻が部屋をのぞいた。

「棚、減った?」

稔彦は、12枚を抜いた場所と、仕入れた5枚の場所を見比べた。

「……思ったほどは」

妻は何も言わず、曲の途中で扉を閉めた。

この話、実際なら?|フリマの整理と古物商の副業を分ける

稔彦が変えたのは、販売するアプリではなく、品物の入手目的と取引の内容です。中古品の副業を考えるなら、「個人だから」「少額だから」だけで許可の要否を決めないようにします。

1.自分の不用品の売却と、仕入れ販売は違う

警察庁の解釈運用基準では、営利目的で同種の行為を繰り返し続けることを「営業」と捉え、副業でも該当し得るとしています。フリマ等も取引の実態に応じて判断されます。

千葉県警察のQ&Aは、自分で使用していた物や自己使用のために買った未使用品を売るだけなら許可不要と案内しています。一方、販売用に中古品を仕入れる営業は古物商許可が必要です。他人の品物を預かる有料の販売代行も、取引内容を管轄の警察署へ確認してください。単に出品件数が多いかだけで、不用品整理と営業を分けられるわけではありません。

2.申請と、営業できる準備は別に考える

窓口は主たる営業所の所在地を管轄する警察署です。必要書類や営業所の条件、管理者、扱う品目、ネット取引の方法を先に確認します。警視庁の申請案内では手数料は19,000円。証明書の取得費や、依頼する場合の専門家報酬は別です。申請しただけで営業を始めず、許可を受けてから進めます。

古物商には、品目・金額・取引方法などに応じて、相手方の確認や取引記録等の義務があります。警視庁は、非対面の取引で免許証のコピーを受け取るだけでは不十分と説明しています。ネット販売の表示義務や利用サービスの規約も、予定する売買方法で守れるか確認しましょう。会社員は勤務先の副業ルールも確認します。

3.売上より先に、続けられる仕事の範囲を決める

仕入れ代だけでなく、手数料、送料、保管、作業時間を含めて考えます。好きな品物を扱うことと、他人の期待に応える仕事は同じではありません。別の人物の物語である「一番好きな写真は、納品しなかった」では、趣味の写真を有料で引き受ける前の条件確認を描いています。

許可の要否や運用は管轄の警察署へ。書類の準備・申請支援を依頼したい場合は行政書士も相談先です。神奈川県・東京都などの相談先の一つとして、あきざくら行政書士事務所の古物商許可サポートをご案内します。同事務所は当メディア運営者の関連事務所です。

次の一歩

買い付ける前に「何を、誰から、何のために入手し、どう売るか」を書いてみましょう。そのメモを持って許可と取引方法を確認すると、始めるための準備が具体的になります。

出典・確認した資料

確認日:2026年10月14日。手続きや個別の許可要否は、予定する取引と申請先で確認してください。

警察庁:古物営業法等の解釈運用基準(PDF)/千葉県警察:古物商・古物市場主許可について

警視庁:古物商許可申請/古物商許可申請をされる方へ/厚生労働省:副業・兼業